2・森の民と村の娘

1/4
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

2・森の民と村の娘

 今より五年ほど前のことだ。  ズィダはもともとは森の中で暮らす民のひとりだった。一族で作る小さな集落で狩猟中心の暮らしをしていた。素朴で平和だった暮らしは、ズィダが十二歳のとき、遠方から知らない男たちがやって来て終わった。  新しく来た男たちは様々な強力な武器を持っていて、武力で森の一族を襲ったのだった。  ズィダの一族は父を含めて大勢が死んだ。  敵襲を生き延びた者やズィダと彼の母は、広野にある稲作の村に連れてこられた。  そこでは大規模な田畑があった。立派な家や食料庫、身分の高い者もいて、武器も沢山作られていた。  昔から森の民には身分の概念がなかった。誰もが協力しあい平等な生活をしていたが、ここは稲を作る民であり、人間の間に格差が存在するようだ。そのことはズィダたちを驚かせた。  村では森の民は最下層の身分となり、田畑の労働力として働くことになっていた。  粗末ながらも食事はあり、家も寝床もある。  しかし村の中でもひどく貧しい暮らしで、ズィダも母も、朝から晩まで畑や田で働きずめだった。  労働に抵抗した森の民の生き残りは、厳しく罰されるか、殺されて死体は海に捨てられる。  ズィダは懸命に働いたが、よく村人に殴られた。目つきが気に入らないと言われて殴られ、もっと働けるはずだと棒で叩かれることもあった。  彼はただ暴力に黙って耐えた。村には彼の母がいた。自分が抵抗すれば彼女がひどい目に合うかもしれない。見せしめに殺されるわけにはいかない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!