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身分を示す青い石の首飾り以外は、よく彼女は好んで少年のような身なりをしている。
それが今日に限って衣が大きく違う。
娘が着ていたのは華やかな重ね布に赤い帯を締め、頭に玉飾りをつけた婚礼の衣装だった。しかしその顔は陰り、頬には涙の跡が見え、化粧はすでに少し崩れていた。
怪訝な顔でやってきた青年を見かけると、ミナハは涙を隠して哀しげに微笑んだ。
「ズィダ、最期に会いたかった」
ミナハは静かに青年の手を取った。
「近頃はひんぱんに大地が小さく揺れている。南の山の頂からも火が出た。あれは大いなる山の怒りだと父は言う」
告げられる言葉以上に、ミナハの見慣れない姿にズィダは戸惑っていた。
着飾ったミナハは、言い伝えに聞く花の精霊を思わせるほど魅力的な女性に見えた。
自分を見る青年の眼差しに気が付き、娘は自分の着飾った衣を皮肉げに見やる。額の上にある小さな冠に、石細工の装身具を着けた手を当てた。
「これは山との契約の婚礼衣装だ。私はこれから祈り、川に入り、私の命を持って山を鎮める」
ミナハは生贄になる。
それを知ったズィダは胸が剣で刺されるような辛さを感じた。過去に自分のいた森の民の集落が襲われたときも、同じように胸が痛かった。それ以上だった。
もうこんな思いは嫌だ。
この娘を失いたくない、生涯離れたくない。
ズィダは自分の内側にある、強い気持ちの正体が分かった。自分が恋をしていることにやっと気がついた。
「だめだ、ミナハ。そんなことは止めてくれ」
彼は真剣な面持ちになって娘の腕を掴んだ。
しかし彼女は哀しげに首を振った。黙って離れようとする娘を青年は抱き寄せた。
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