2・森の民と村の娘

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 彼女のしなやかな身体を、ズィダは自分の腕の中に強く抱きしめる。 「そんなことはさせない。二人で一緒にここから逃げよう」  ズィダの母親はすでに病気で亡くなっていた。この村に残る理由もない。  彼の腕の中にいるミナハの頬に、答えの代わりに涙が流れた。  巫女は愛する者を作ってはならないという村の掟があった。  ミナハはそのことを良く知っていた。  実際、その掟があっても今まで何も問題はなかった。  だのに、今はズィダと離れがたい。この青年とずっと一緒にいたい。  ミナハもまた初めての恋に戸惑っていた。  今までは大地に命を捧げるのも怖くはなかった。だけれどなぜこんなにもつらい涙が流れるのか。  ミナハが答えるより前に、木立の向こうから、村人たちの足音と娘を探して呼ぶ声が聞こえた。  すぐに彼らの姿が見え、彼らは二人を見て驚きの声をあげた。 「そこの下男、ミナハ様から離れろ!」  村人の数名と共にいた召使いの女性が一人、悲鳴のような声をあげた。 「ミナハ様、衣装合わせのときにいなくなったと思ったら、そんな! 巫女の掟破りは処刑されます。村に戻りましょう」  村人たちは強引に娘を連れ帰ろうとした。  しかし青年はミナハを抱きしめたまま、彼女を離さなかった。  憤りのあふれるままに、ズィダの怒りの叫びが喉を突いて出た。 「それでミナハを生贄にする気なのか。そんなものが神であるものか!」  滅多に怒らない青年の震えるような怒りを身近に感じ、ミナハはうろたえた。  村へ帰るか、この青年と逃げるか。  目に迷いが見えたが、すぐに娘はズィダの手を取った。
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