14人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「……?」
安西は怪訝そうな顔をし、指を引き抜いた。
「お前、もしかして普段から後ろ使ってんのか?」
安西の目に仄暗い感情が浮かぶのを認めて、俺は首を振る。
「違う。……一人でしてる、だけ」
「一人で?」
探るように見られるが、一人でしてるのは本当だ。
ただその理由が、安西が快く思うようなものではない。
「へえ」
安西の目が、より濃い炎を燃やして細められる。
気づかれた、よな。
焦りを覚えたが、その可能性を安西が考えていなかったはずもなく、今さら怒られるのも変な話だ。
それなのにどうしてか、浮気を見抜かれたような心境に立たされた。
「そういえば、新田とはどこまでしたんだ?」
「……」
「授業中、新田が俺を呼んだのを見ただろ?あの時、新田は俺に何て言ったと思うか」
「……え?」
予想外の問いに思考を巡らせるも、あの時何を言ったかまでは浮かばない。
すると安西は、乾いた笑みを浮かべながら続けた。
「君は俺の2番手だねって言ったんだ。まさかと思いつつも否定していたが、今はっきりと分かった」
安西が俺を睨むように見ながら、がっと勢いよく顎先を掴み、持ち上げた。
「っ……」
「それも、新田と次にするために解していたんだろ」
「……ち、が……」
具体的には、新田とするためというよりも、そうして一人ですることで気を紛らわしていただけだが、上手い言い訳が浮かばなかった。
新田を思いながらしていた行為、というのは紛れもない事実だからだ。
ただ、安西の痛いほどの視線を感じながらも、新田の意図が読めずに困惑した。
先生、なんで?
俺とはたった一度切りだったし、気の迷いだったんじゃないの?
結婚したって言うから、俺は。
「まあ、そんなお前だから俺は」
安西が何か言いかけて止めるが、混乱の中にいた俺は続きを促す余裕もなかった。
互いにすっかり熱が冷めた中で、揃って別々のことを考えながら立ち尽くしていた。
最初のコメントを投稿しよう!