4 不器用な優しさ

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「ほら」 「うん」  促されるままに中に入ると、保健医が壁際の本棚に伸ばしかけていた手を離し、振り返ってこちらを見た。 「あら、鼻血が出てるわね。こっちへ座りなさい」 「はい」  促されるままに椅子に座ると、背後で安西が扉を締めかける音がした。 「待ちなさい。付き添いは処置が終わるまでいないと」  どうやら安西は帰ろうとしていたらしい。 「先生、安西は別に帰っても」 「……はい」  俺の言葉を遮り、安西は素直に返事をして部屋に戻ってきた。  傍らに安西がいる気配を感じながら、処置をしてもらう。 「うん、骨は大丈夫そうね。目が霞んだり、吐き気とかはしてない?」 「はい、大丈夫です」 「それなら多分大丈夫よ。ただ、もう少し待って血が止まらなかったら病院に受診して下さいね」 「はい」 「あと5分ぐらい様子を見ましょう。さ、安西君も座って」  安西が椅子を引っ張ってきて隣に座ろうとするのを手で制した。 「安西、先生はこう言うけど、俺は」 「いい。俺はここにいる」 「でも」 「ほらほら、そんなことで揉めない。数分だし、止まったら二人で授業に戻れば……ああ、もう授業も終わりね」  体育は今日の最後の授業だった。安西も早く帰りたいだろうに、きっちり俺の鼻血が止まるまでそこにいてくれ、一緒に保健室を出た。 「ごめん、安西。付き合わせて」 「いい」  どこか苛立った様子の声が返ってきて、やっぱり付き合わされて怒ってるのかと思い、落ち込んだ。  その後はろくに言葉も交わさず、教室に着いてホームルームを受けて帰り支度をしていると、さっきのクラスメイトが話しかけてきた。 「さっきは悪いな、藤野。これお詫び」  差し出されたのは炭酸ジュースだった。実は炭酸は苦手なのだが、せっかく買ってきてくれたのだからと受け取った。 「サンキュー。もう気にしなくていいからな。この通り、血も止まったし」 「そっか、よかった。じゃあな」 「ああ」  手を振り返し、帰ろうとすると、背後からひょいと炭酸ジュースを取られた。
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