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「あ」
そして、止める間もなく、その相手は炭酸ジュースを一気に飲んだ。
「安西、何してるんだよ」
奪い返そうと手を伸ばすが、安西はさっと避け、空になったジュースの缶を教室のゴミ箱に放り投げてしまう。
「苦手なんだろ」
「え?」
なんでそれを知ってるんだ、という疑問は、いつもの鋭い視線に飲み込まれかけた。
だけど。
ーー言いたいことがあるなら、遠慮なく言え。我慢されるのは気持ち悪い。
安西の台詞を思い出し、尋ねることにした。
「なんで俺が苦手だって知ってるんだ」
「……」
「パンケーキのこともだけど、やっぱり安西」
また怒ることを覚悟して口を開きかけると、安西が遮った。
「俺のことはいい」
「けど」
「俺がもし、その気があったとして、それでお前は嬉しくなったりするのか?」
安西は俺の反応を窺っていた。獲物に今にも食らいつこうとしながらも、逃げられないように間合いを計っている肉食獣のように。
俺が新田を好きだと知っているから、安西は自分の気持ちを吐露するつもりはないと、そういうことなんだろう。
だが、もし安西が俺を好きだと、はっきりと告げる日が来たならば。
その欲望を俺にぶつけ、食らいつき、骨の髄まで貪るように愛してくる安西を想像した途端、体の奥が奇妙な熱を灯した。
ーーあら。あんたも私と同類だと思うけど。押しに弱いってこと。相手から熱心に口説かれたら押し負けちゃうんじゃない?
歌鳴の台詞が響いた時、俺はようやくゆっくりと口を開いた。
「もし、俺が嬉しいと言ったら、安西はどうするんだ」
逆に問い返されるとは思っていなかったのだろう。
安西は僅かに目を開き、唇に淡い笑みを浮かべた。
「その言葉が出るということは、少しは俺に好意があると判断するが?」
黙り込むと、安西はいいように解釈したのだろう。俺の腕を引いた。
その手が微かに湿っているのを感じて、体育の授業の名残りか、緊張のためか測りかねて、もし後者であれば俺はどうするかと自分に問いかけた。
はっきりとした答えはまだ出ないが、想像すると俺も汗が浮かんできそうになった。
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