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2 読めない真意
翌日は土曜日で特に予定もなく、のんびり起きると、階下から甘い匂いが漂ってきた。
あれ、この匂い……。
まさかなと思いつつも台所へ向かえば、姉の歌鳴が何やらデザートを作っている。
「姉貴、何作ってるの」
「あら、やっと起きてきたの。カップケーキ。友達にあげようと思って」
「ふうん」
「つまみ食いしちゃだめだからね」
「はいはい」
俺が作りかけのカップケーキをまじまじと見ていたのを勘違いしたのだろう。歌鳴に釘を刺された。
台所から追い出され、テレビでもつけようとしていると、スマートフォンが通知音を鳴らした。テーブルに置かれた歌鳴のスマートフォンだ。何気なく見れば、明らかに男からのメッセージだった。
ふうん。「友達」ねえ。
姉と恋愛の話とかは一切しないが、母と話しているのを聞いて、薄々察している。
「姉貴、彼氏からLINE来てる」
「はあ?あんた見たの?」
「見てな……」
反論を口にしかけたところへ、今度は俺のスマートフォンが鳴った。メッセージを確認すると、安西からだった。
「俺んちに来い?」
続いて送られてきた地図アプリの住所を見ると、意外なほど近くで目を瞬いた。
「りょうか……」
返信を打とうとして、家に招くということはあれか、と思い当り、指が止まる。
「ふうん。あんたは友達?」
後ろから歌鳴が覗き込んできて、咄嗟に隠す。
「見るなよ」
「あら、あんたもさっき見たんじゃないの」
「彼氏ってのは図星ってわけ?」
「まあね。向こうからがんがん来られて仕方なくよ」
そのわりには、お菓子作りに気合が入っていたようだが、ツッコミを入れると後が怖いからやめておいた。
「へえ。俺は自分から行く方だから、その感覚は分からない」
「あら。あんたも私と同類だと思うけど」
「え?」
「押しに弱いってこと。相手から熱心に口説かれたら押し負けちゃうんじゃない?」
「俺が?」
「あ、やばい。もうこんな時間。行ってくる」
ばたばたと慌ただしく出て行く歌鳴を見送っていると、もう一度通知が来た。
「来ないならお前の家に行く」というメッセージを見て、返信をし、俺も支度をすることにした。
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