2 読めない真意

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「へえ、これが安西の家か」  外観から見て高級そうなマンションだと思っていたが、中に入ると一層高級感が増した。  俺の一戸建ての家より全部屋が広い。確実に。 「家族とかは?」  台所で何やら調理器具を取り出している安西に声をかければ、こちらをちらりとも見ずにあっさり答えた。 「いない」 「ということは一人暮らし?一人でこれは広すぎない?」 「まあな。親父が仕事柄、セキュリティに厳しいから」 「何の仕事?」 「俺に興味でも湧いたか」  牛乳を計量カップに注いでいた安西がこちらを見る。思いの外強い視線に、反射的に目を逸らして「別に」と返す。  安西の目は怖いと皆言うが、俺の怖いは、後ろ暗いところを探られそうでという意味が付け加えられる。  でも、俺の秘密はもう見抜かれているし、どちらかといえば安西の方が後ろ暗いことありそうなのに。  考えるのはやめ、ベランダの方を見た。2月中旬というのに、春のように温かい日差しが入り込んできている。 「あ」  そういえば、今日は。  思い当った時、何やら甘い香りが漂ってきた。歌鳴が作っていたお菓子に似た匂いだ。 「何を作ってるの?」  匂いに誘われて台所の方へ近づく。  俺は実は甘党で、甘いものは大体好きなのだが、一番好きなのはパンケーキだ。  台所に立つ安西は背が高く、すっと背筋が伸びているのもあり、意外と様になっていた。仏頂面でフライパンの中にある黄色い塊を見ているところは少し笑いを誘われたが。 「もしかして、パンケーキ?」 「……そうだ」 「俺の好み、知ってた?」 「さあな。ほら、一枚焼き上がるから皿を出してくれ」  無表情のため真意は読めないが、まさかなとすぐに打ち消した。
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