2 読めない真意

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 でもこれが、新田だったなら。  安西を新田に置き換えようとした時、それを咎めるように安西の言葉が続いた。 「知ってるか?気持ちが伴うセックスの方が何倍も気持ち良いんだぜ」 「だから、俺を落とす気でこんなことを?」 「藤野がどれだけ新田を好きか知らないが、少しでも俺を好きになれば、お前だって気持ち良くなれる。そしたら互いにウィンウィンだろ」 「俺が新田の代わりに安西を利用するとかは考えないわけ?」  安西の目が一瞬、冷たい光を帯びる。  何かまずいことを言っただろうかと焦るが、安西はふっと笑った。心から笑っているとは言えないが、どこか楽しげにも見える笑みだった。 「それもいいな。そうしたければそうしろ」  安西の目は、火傷しそうなほどの熱を含んでいるのに、発する言葉はどこか冷めて聞こえた。 「安西、お前さ」  食器を流しに運び始めた安西の背に、俺はさっきから浮かんでいる確信に満ちた問いを投げかけた。 「俺のこと好きなの?」  安西の動作がぴたりと止まる。 「だってほら、いろいろ上手い言葉で誤魔化してるけど、結局、俺を手に入れたいからこんなこ……」  カチャンと音を立てて食器を流しに置いた安西は、俺を睨むように見ながら、近づいてきた。  まるで、俺を殺したくて堪らない殺人者みたいな怒気を感じて、俺はじりじりと後ずさるが、安西の動きの方が早かった。  腕を強く掴むと、男二人が悠に寝そべることのできるソファに俺を突き倒した。 「っ……あん、ざ……」  俺の上に覆い被さりながら、安西は唸るように言った。 「次に同じ台詞を吐いてみろ。お前が泣き叫ぶほどめちゃくちゃにしてやる」  何か逆鱗に触れてしまったのは間違いなく、謝ろうとするも、言葉通りのことを今されそうな恐怖で上手く声が出ない。 「っ、……ぁっ」  安西の手が、ズボンの上から俺のものを掴み、揉む。 「あ、っ、あっ、やっ……」  明らかに熱を高めるだけに集中した、乱暴ながらも巧みな動きに、勝手に声が溢れる。慌てて手で口を塞ごうとすれば、安西の片手が伸びてきて、手をどかされて口付けが降ってきた。 「ん、ぅ……ンン」  昨日とは全く違う濃厚なキスだが、角度を変えて合わさりはしても、口の中にまでは侵入してこない。  手の動きも既に止まっていて、恋人同士のような甘ささえ含んでいるキスにそっと目を開けば、焦点が合わないほど間近で安西の目と合い、それをきっかけに唇を解かれた。 「もう、帰れ。したくなったら連絡する」 「……ああ。あの、さっきはごめ……」 「謝る必要はない」 「……分かった。じゃあ」  安西はもう俺を見ることはなかった。  俺も安西を見るのがどこか気まずくて、いそいそと部屋を出た。  マンションの外に出ると、何気なく安西の部屋がありそうな方向を見上げる。無論、安西がこちらを見下ろしていることはない。  なぜか、キスをしながら間近で合った安西の目がちらつき、しばらく消えなかった。
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