3 まるで麻薬のような

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 溜息をつき、次の授業の準備をしようとしたところへ、新田が近づいてきた。 「藤野」 「は、はい」  慌てて返事をした瞬間、手に持っていた教科書を落とした。 「動揺し過ぎだ」 「す、すみません」  新田が笑いながら教科書を拾い上げてくれ、受け取ろうとすると、俺の手に自分の手を重ねてきた。 「っ……新田、先生?」  気がつけば、教室には俺と新田の二人きりだった。  上目に新田を見上げれば、新田の顔が傾き、近づいてくる。 「あ、……ン」  新田がこうして、化学準備室以外でこんな行為に及ぶのは初めてだ。それは他人に見られる可能性があるからだと思っていた。 「にった、せ……」  ここでは誰かに見られると訴えようとするも、新田は合わせるだけのキスでは終わらせず、腰を抱き寄せて舌を差し入れてくる。 「ん、んぅ」  新田のキスはまるで麻薬のようだった。  息が苦しくなれば、絶妙のタイミングで唇を離し、また重ねてきては翻弄する。  学生時代にたくさんの経験を積んだと、冗談交じりに言っていたが、あれは冗談ではないだろう。  しつこくない程度に漂う爽やかな香りが鼻腔をくすぐり、目眩を覚えるほどにキスに酔いしれていた時に、すっと新田が唇を解いた。  そして、俺の唇に人差し指を押し当てると、耳元に囁く。 「次は来週な」  ぼうっとしながら頷けば、新田は何事もなかった顔で時計を確認して教室を後にする。  一人取り残された俺は、その場にへたり込んだ。  顔が熱い。  知らぬ間に反応してしまった自身を感じながら、数分そのまま立ち上がれなかった。  
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