初めての温泉旅行(4)(※)

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初めての温泉旅行(4)(※)

 窓から差し込む光に照らされて目を開ける。 むくりと起き上がると、隣に小沢が眠っている。はっと気づいて、浴衣を探すと、小沢の向こう側に脱ぎ棄てた・・・脱がされた自分の浴衣があった。 それをとろうと、小沢の顔を乗り越えようと手を伸ばした時、触れる感触がした。 「あっ・・・」 小沢の両手が、祐実の胸を支えるように掴んでいる。 「や、ちょっ・・・」 「いいね、祐実。朝から積極的で。」 「そういうつもりじゃあ・・・。起きてたんですか?」 「だって、目の前にこんな美味しそうなものあったら、飛びつくに決まってるじゃん。」 小沢は手を離さない。 「浴衣を、取ろうと・・・」 「まだ、いいよ。そのままで。」 するっと祐実の腰に手をまわして、押し倒しながら抱き着く。 「あの、・・・」 「祐実」 耳元で囁く。 「朝、起きてすぐ祐実が隣にいるなんて、最高・・・」 「!!・・・」 悶絶して、何も言えなくなってしまう。どうしてこんなに甘い言葉が出てくるのだろう。 「体、大丈夫?」 一瞬、何のことだか不思議に思ったが、昨夜のことだと察して、慌てて頷く。 「なんだっけ・・・。祐実の見てた海外ドラマ。朝起きたら、居なくなってたんだっけ?」 「あ、はい。相手が起きる前に、主人公が逃げちゃうんです。まあ、そういうワンナイトきっかけって話だと、ありがちなシチュエーションですけど・・・」 「ありがちなの?・・・それはもう、最悪だね。まあ、俺は絶対、逃がさないけど・・・」 そういって祐実に口づける。 「逃げませんよ・・・」 「言ったな。言質とったぞ・・・」 そのまま、また朝からめいっぱい愛されてしまった。  朝ご飯を食べたあと、チェックアウトまでまだ時間があるからと、大浴場へ向かう。が、そこで体を洗っているときに、気付いてしまった。幸い、入っている人は一人しかいなくて、祐実は急いで体を洗い終え、服を着る。 外にでると、まだ小沢はいなかったが、5分ほど待つと男湯から現れた。 「あれ、ずいぶん早い・・・。」 祐実は少しうらめしそうに小沢を見る。 「これじゃあ、恥ずかしくて、長居できません・・・。」 小声で訴えて、胸元をちらりと見せる。昨夜、そして今朝、小沢に愛された赤い跡が、数か所、しっかりついていた。 「あー・・・」 小沢は嬉しそうににやつく。 「ここだけじゃないんですよ。他にも・・・」 さっと祐実の肩を抱いて囁く。 「貸切風呂、行く?」 「もう、洗いましたし・・・、時間も、ないですからっ・・・」 「残念・・・。こういうこともあるし、次は露天風呂がついている部屋にしよう。」 祐実は赤面して見上げる。小沢は楽しそうだ。 宿をチェックアウトして、遊覧船へ向かう。  船は、湖面をすべるようにゆったりと進む。甲板に出ると風が心地よく、神社の鳥居や富士山が見えた。 手をつなぎ、船のなかを探索している途中、ふいに小沢が振り返ってちゅっと軽く口づける。 「やっ・・・どうしたんですか。」 「ごめん、浮かれてる。」 にこりと微笑んで、繋いだ手を持ち上げ、指に軽く唇を添える。 祐実は赤面しつつ頬が緩む。浮かれているのは、自分も同じだ。この旅行のあいだ、ずっと心が高鳴り、はしゃいでいる自分がいる。  これまでも、小沢には自分が大切にされていると思っていたが、より増して気持ちをストレートに表現されているように感じる。これが、本気なのだろうか・・・。  船を降り、手をつないで遊歩道を歩く。目を向けた先に、鳥居が見えてくる。先の本殿まで、長い石段がある。 「大丈夫?」 「・・・が、がんばります。」  手を引かれながら石段を登り切り、お参りをした後、授与所へ向かい、探していたものを見つけて手に取る。 「これ・・・。下調べの時に見つけたんです。、一緒に買いたいなと・・・」 男女で、対になっているお守りで、結ばれた縁をより深く・・・という思いが込められているらしい。 「いいね。・・・祐実がそういうふうに思ってくれてるの、うれしい。」 素直に言葉にされて、祐実はうるんだ目で小沢を見つめる。  次の日は仕事だからと早めに帰路についた。夕飯を自宅近くのラーメン屋で済ませ、祐実のマンションの前に車が止まる。 「すごく、楽しかったです。」 「・・・帰したくない。」 小沢が手を握って見つめる。祐実も照れ笑いを浮かべながら握り返す。 「楽しかったです・・・。すごく。」 「祐実」 小沢が祐実の顔に手を添える。 「今度は、俺の家にきてよ。」 「小沢さんの、家・・・?」 「うん。泊まりの用意とか、持ってきて。そのまま、置いといていいから。」 祐実の顔が赤くなる。 「一日中、家でゆっくりする日があってもいいかなって。・・・そうだ、一緒に餃子でも作って、餃子パーティするか。」 「いいですね、手作り餃子。」 祐実も賛同する。 「次の週末は、大丈夫?」 「はい。」 「よし。・・・じゃあ、週末を楽しみに、今週は乗り切るか。」 小沢が笑顔を浮かべ、祐実もつられて笑った。
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