おうちデート(1)

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おうちデート(1)

 この週末は、小沢の家に泊まりにいくことになっている。金曜の会社帰りに買い物を済ませて、土曜日は午前中に掃除や弁当用の作り置きを済ませた。簡単に昼食を済ませ、着替えと化粧品をトートバッグに入れて、小沢の家へと向かう。駅まで迎えに来てくれるというので、電車に乗る時間を連絡した。同じ沿線だが、祐実の家からは、会社と反対側になり、40分ほどかかりそうだ。  駅の改札口まで迎えにきてもらい、歩いて5分ほどで綺麗な大型マンションに到着した。エレベーターを上がり案内されると、3LDKもある角部屋だった。間取りに何か言いたそうにしていると、小沢がはっと気づいて声をかける。 「元奥さんと住んでた家じゃないからね。そこは分譲だったけど、今、人に貸してるから。」 顔に出ていたかと気づき、頬を手で緩めるように撫でる。 「ワンルームじゃ、もう荷物が入りきらなくてさ。・・・あ、ソファ座ってて。アイスコーヒーでいいかな。」 「ありがとうございます。」 カウンターキッチンに、小さなダイニングテーブル。テレビの前には二人掛けのソファ、ラグの上に小さなローテーブルが配置されている。 祐実は、手土産の焼き菓子が入った紙袋を差し出す。 「これ、おやつに・・・」 「ありがとう。なんだろう・・・」 「マドレーヌとクッキーの詰め合わせです。確か、前に好きだっていってたような。」 「ありがとう。早速食べてもいいかな。」 祐実はミニテーブルの上に紙袋から出した焼き菓子の箱を置く。 「開けてもいい?」 祐実が頷くのを見て、小沢が箱の包みを開けていく。中から、一口大のチョコチップクッキーがいくつか入っている包みを取り出し、一つつまんで口に運んだ。 「・・・うん、おいしい。」 「良かった。時々買うケーキ屋さんで、最近気に入ってるお店のなんです。」 「祐実も、食べる?」 「はい。」 箱に手を伸ばそうとしたら、口元にクッキーを差し出された。 「ん。」  祐実は、恥ずかしそうに口を開くと、そっとクッキーを唇の間に差し込まれた。口に含むと、バターの香りがする。小沢がソファの背もたれに腕をかけ、自分もクッキーをつまみながら満足そうに祐実を見ている。甘い視線を感じて、クッキーを味わうどころではなかった。 「な、なんですか・・・」 「祐実が、うちにいる、って思うと・・・ニヤけてくる。」 「それだけで・・・?」 「それだけで、だよ!」  小沢がいたずらっぽく笑って、ちゅっ、と音を立てて、軽く唇を合わせる。それだけで、祐実はドキドキとゾクゾクがあふれてくる。 「そうだ、忘れないうちに。」 小沢が立ち上がって、戸棚から何かを持って戻ってくる。手を出すようにうながされ、差し出すと、手のひらの上でチャリ、と音がして、キーホルダーのついた鍵が乗せられていた。 「あ、これ・・・」 この前の温泉旅行のときに、雑貨屋で小沢が見ていたものだ。 「お揃い。」 と自分の鍵にもつけたキーホルダーを並べて見せる。 「俺の趣味でごめん。」 「そんなこと・・・。いいんですか、鍵・・・。」 「もちろん。いつでも来ていいよ。むしろ来てもらいたい。ベッドに忍び込んで待っててもらっててもいいし。」 「そんなこと、しません!」  小沢はクスクスと笑っている。祐実は頬を染めながら鍵を脇においたバッグにしまう。小沢の気持ちが嬉しくて、自然と笑顔になる。 「ありがとう、ございます。」  小沢は優しく微笑み、祐実の顎に手を添えて、今度はゆっくりと唇を合わせる。祐実はうっとりと目を閉じる。 「ちゃんと、お泊りの用意、してきた?」 「・・・はい・・・。」 「よし。」 小沢はよくやった、というようにうなづく。 「このまま押し倒しちゃうと、ずっといちゃいちゃしてそうだから・・・。一息ついたら、今日のメイン。ギョーザ作りに入ろうか。」 台所のカウンターの上に、調理道具と材料を並べていく。 「ギョーザの野菜なんだけど・・・。キャベツ派?白菜派?」 「うちは、キャベツでしたね・・・。」 「うちは、白菜だったんだよ。でも、今は時期的にあまり売ってないし、あっても高いから・・・コレを少しいれようかと。」 と、白菜の漬物を取り出した。 「へえ・・・漬物ですか。」 「ちょっと前に、テレビでやってたのを真似したら、案外いけてさ・・・。これを祐実にも食べさせたい、と思って。」 二人で手際よく野菜を刻んでいく。 「二人で並んで料理するのも、いいですね。」 ぽつりと祐実がつぶやく。小沢が嬉しそうに祐実を見る。 水を切った野菜を、ひき肉と混ぜて捏ね合わせる。コショウをたっぷりと入れるのが好きだという。 「これでもか、ってくらいに入れる。あとは、ちょっとだけ、みそを隠し味に。」 「へえ・・・。どんな味になるのか、楽しみです。」 餡が出来上がったら、二人で包み仕上げていく。「大葉入りと、チーズ入りも作ろうか。」 トレイの上に、次々と餃子が並んでいく。普段から作っているからだろうか、小沢の包んだ餃子の形がとても良い。 「すごい、上手・・・」 「手先は器用なほうだと思うよ。」 小沢は意味深げにニヤリと笑うが、祐実は本気で感心して気づいていない。 「お店みたい・・・」 「やっぱり、二人だと早いな。」 トレイに並べた餃子にラップをかけ、半分を冷蔵庫、半分を冷凍庫へ入れる。時計の針は17時を差そうとしていた。 「ちょっと早いけど・・・始めますか。」 「賛成です。」
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