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おうちデート(5)(※)
食事を終え、台所で二人で後片付けを終えたところで、小沢が後ろから抱き着く。
「今日は・・・、泊ってってもいいのかな。」
祐実はドキリとしながらうなづく。もとより、そのつもりだった。ただ、休日出勤で疲れているであろうところを、泊っていってもらったほうがよいのか、自宅でゆっくり体を休めてもらうほうがよいのか、考えあぐねていた。
「は、い・・・、でも・・・」
「何?」
「着替えが・・・」
「替えの下着は、朝コンビニで買った。」
「あと、あの・・・」
「ちゃんと、アレも買ってきた。」
「・・・泊るつもり満々じゃないですか。」
祐実は内心嬉しく思いながら憎まれ口を叩く。
「いいよって言われてから買いにいく時間がもったいないと思って。」
背中に小沢の体温を感じながら、この前小沢の家にいったときのことを思いだす。
「でも、あの・・・、小沢さんの家とは違って、壁は薄い方だと思うので・・・」
小沢の腕に力が入る。
「俺も、他の奴に祐実のイイ声なんて聞かせたくないから・・・。対処するよ。」
「ふっ・・・、ん・・・」
祐実の部屋の小さなベッドの上で、祐実は必死で声をこらえながらも、小さく嗚咽のような声が漏れる。時々、小沢が祐実の弱いところを執拗に攻めて、堪えられなくなりそうになったところで、唇を塞がれる。小沢は楽しそうなのに、自分はまるで余裕がない。それでも、時々見せる小沢のこらえるような表情がなんとなく嬉しい。
腕枕をされながらまどろむ祐実の様子を、髪の毛の手触りを楽しみながら満足気に見つめる。祐実も、この時間が好きだ。小沢と肌をふれあわせ、ぬくもりを感じて余韻に浸る、幸せな時間。
「ね、祐実・・・」
小沢がなにか言いかけたところで、小沢の携帯電話が鳴る。
「なんだ、こんな時間に・・・?」
ベッドを出て、電話を見ると、小沢が首を振る。
「どうしました?」
「・・・出なくてもいいよ。」
「でも、急用かも・・・」
「仕事関係じゃないから。」
「でも・・・」
「元奥さん。出なくてもいい相手でしょ。そのうち切れるよ。」
小沢が吐き捨てるように言った後も呼び出し音はなり続け、祐実の心にもやっとした何かが浮かぶ。
「なにか、急用なのかも・・・。」
「また、次の機会でいいよ。」
祐実は迷いながらも、もやりとした気持ちを吐き出した。
「でも、私の知らないところで連絡されるより、いいです。」
「・・・わかった。」
小沢はしぶしぶ電話に出た。
「はい。」
「久しぶり。元気?」
「何の用?」
「冷たいなあ・・・」
「今、彼女と一緒にいるんだ。邪魔しないで。」
「彼女・・・?彼女ができたんだ。へえ・・・」
「何?急用じゃなければ、切るよ。」
「ちょっと、相談したいことがあって。」
「今じゃなくていいよね。今日はもう切るから。」
「・・・わかったわ。また連絡するから。」
「出るとは限らないよ。」
小沢は電話を切った。電話で話している小沢の声は、いつも祐実と話すときとは別人のようなよそ行きの声だった。
「ごめん」
小沢は祐実の隣に腰を下ろす。
「別に、謝るようなことじゃ・・・」
「でも、せっかくの二人の時間なのに。」
祐実の肩を抱き寄せて、頬に唇を寄せる。
「全然、連絡なかったんだよ、ほんとに。よりによってこんなタイミングで・・・」
珍しく落ち込んでいる様子の小沢の肩にもたれかかる。
「大丈夫です。」
「祐実・・・」
ふっと微笑んで、小沢を見上げながら口を開いた。
「隠すようなことでもないので、話しますけど・・・。時々、元旦那さんから、生存確認みたいなメッセージと、犬の写真がきます。」
「犬・・・?」
「飼ってたんです。元々は、独身のときから元夫が飼っていて・・・。結婚していたときは、私もかわいがっていたので。」
スマホに手を伸ばして、写真フォルダを開き、茶色のトイプードルの写真を見せる。
「チョコっていうんです。この子と離れるのはさみしかったなあ・・・」
じっと眺めていると、小沢が祐実の腰を抱く。
「犬、飼いたいの?」
「いえ、そういうわけでは。それに、この子には会いたくなりますけど、元夫には全く未練はありませんから!」
祐実はスマホをテーブルの上に戻す。
「祐実は・・・俺と、一緒にいたいって思ってくれてる・・・?」
「もちろん・・・。だって・・・」
祐実は、小沢に向き直す。
「今日、テレビ見てるときに、美味しそうなパンケーキのお店が映ったんです。小沢さん、喜びそうだなあって、一緒に行きたいなって・・・思っちゃったんです。」
「祐実・・・」
小沢が祐実の手を握る。祐実は小沢の肩に額を乗せて呟いた。
「小沢さんも・・・、私と一緒にいたいって思ってくれてますか・・・」
「思ってるよ!・・・でなきゃ、遅くなって怒ってないか気を回すこともないし・・・こんなに必死にならない。」
ぎゅっと祐実を抱きしめる。祐実は涙ぐみながら、小沢の背中に手を回す。
「好きです、小沢さんのこと。」
「祐実・・・」
祐実が、初めて小沢に気持ちを打ち明けた瞬間だった。小沢の腕にさらに力がこもる。祐実が顔を上げて、小沢の頬に手を添え、そっと唇を重ねた。
「祐実、やばい。・・・もう1回、したくなった。」
「でも、さっき・・・」
散々、と言いかけたところで、小沢が祐実の唇を塞ぐ。
「祐実が、うれしいこと言ってくれるから。しかも、自分からキスしてくれるなんて・・・。」
改めて言われて、祐実は恥ずかしくて俯く。
「今日は、お仕事で疲れてるんじゃ・・・。」
「全然。明日は休みだし、もう1回、付き合って。」
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