元・夫(3)(※)

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元・夫(3)(※)

「祐実」  背後で、声がする。大好きな人の声。 「小沢さん」 祐実が振り向くと、直哉が立っている。 「祥吾、今、私が付き合ってる人だよ。」 「あ・・・」 祥吾が、とっさに手を離す。祐実は、直哉のほうへ駆け寄る。 「初めまして。小沢といいます。」 「あ・・・初めまして。」 祥吾が軽く頭を下げる。 「祐実を迎えにきたんだけど・・・もう、用は済んだ?」 「はい。」 祐実が笑顔で答えて、祥吾に手を振る。 「じゃあね。」    祐実は直哉にエスコートされて、車の助手席に座る。 「今日は、俺の家のほうが近いから、このまま、うちへ行くよ。」  いつもとは違う有無を言わさないような言い方に、祐実は直哉がすこし険しい顔をしていることに気付く。 「・・・もしかして、聞こえてました?」 「・・・うん。」 直哉はエンジンをかける。 「あれは、あの・・・。私も、びっくりして。」 「うん。・・・でももう遅い、よな。」 「はい。」 祐実は迷わず返事をする。小沢は少し暗い視線を送る。 「本当に?・・・俺に、無理やり言わされてるんじゃないよな・・・?正直に、言って。」 「無理やりじゃ、ないです。私、本当に・・・」 祐実の表情を見て安心したように直哉が頬を緩め、アクセルを踏んだ。 「うん、信じるよ。祐実のこと。」  直哉の家に着いたとたん、脱衣所に直行させられた。 「祐実、シャワー、浴びよう」 「え・・・」  とまどう祐実の返事を待たずに、浴槽に湯を張り、シャワーをひねる。自分の上着を脱ぎ、祐実の服も脱がせていく。 「小沢さん・・・」 「呼び方。」 「直哉、さん・・・」 「全部、洗い流したい。何もないのも信じてるし、さっきの祐実の言葉も信じてる。だけど、どっかで行かせなきゃよかった、って思う自分もいるんだ。・・・ごめん。」 「直哉さん」 祐実が直哉を見つめる。直哉は、ぐっと祐実の肩を引き寄せ、耳の後ろに顔をうずめる。 「こんなに、自分が心が狭いとは思わなかった。」  されるがままに服を脱がされて、直哉に手を引かれて浴室へ入る。お互いの裸は何度も見ているけれど、明るい浴室でとなると恥ずかしさが違う。祐実は椅子に腰かけるよう促され、直哉が石鹸を泡立てて、手で泡を全身に広げていく。耳の後ろ、うなじ、肩から背中。たっぷりの泡が吸い付くように肌に広がり、時々、直哉の指が触れる。 「直哉、さん・・・」 「ちゃんと、洗わないと。」 祐実のつま先まで、全身を泡で覆いきったところで、後ろから祐実の体のきわどいところに指を滑らせていく。祐実はたまらず、求めるように直哉の方を見る。 「洗ってるだけなのに、そんな顔して・・・」 直哉は、意地悪そうにペロリと唇を舐め、祐実の足の間に指を滑らせていく。 「あっ・・・」 「これ、石鹸・・・?石鹸だけじゃないね・・・」  ゆっくりと指を滑らせながら反対の手では胸を揉みしだかれ、祐実は小さく声を上げる。 「んっ・・・」 「立って・・・」 直哉に促されて立ち上がり、壁に手をつくと後ろから直哉に突き立てられた。 「あっ・・・」 「するっと、入ったよ、祐実。・・・なんで?」 「なんでって・・・、直哉さん、が」 「俺が、何・・・?」 「直哉さんが、いろいろ、触る、から・・・」 「そう・・・?洗ってただけだけど・・・」 「そんなこと・・・」 祐実の背中に指を滑らせると、びくんと体をしならせる。後ろからゆっくりと、深く突かれながら、途切れ切れに言葉をつないだ。 「直哉さん、に、触られたからっ・・・こう、なったの・・・っ」 直哉が後ろから覆いかぶさり祐実の手に自分の手を重ねると、祐実の耳朶を食む。 「俺以外に、もう、触れさせるな・・・」 祐実はぞくぞくと全身を震わせながら、声を上げた。  湯船につかり、直哉が祐実を後ろからハグするような体勢で温まる。 「ごめん、ちょっと、無理させた・・・」 祐実のうなじに唇を近づけ、謝るようにつぶやく。祐実は自分の前に回された直哉の腕に頬を寄せる。 「直哉さんも、嫉妬とか、するんですね。」 「そりゃあ、するよ。・・・余裕ないし。」 苦笑いする直哉に祐実は驚く。 「いつでも、祐実と一緒にいたくて、必死だよ。」 ちゅ、と音を立てて軽く唇を合わせると、直哉は祐実の頭を撫でる。 「シャンプーも、しようか。」  浴槽を出て、直哉が祐実の髪の毛を湯で洗い、シャンプーを泡立てて地肌をマッサージするように洗う。いつも自分で洗うよりも太い指の感触が案外心地よい。力加減も程よく、ヘッドスパを受けているようだ。 「はあ・・・気持ちいい。お姫様気分です。」 「今日は、もう、なんでもするよ。お姫様。」  泡を流して、タオルで濡れた髪を覆う。もう一度湯船につかってよく温まったあと、風呂から出ると、体を拭き、髪の毛を乾かすところまで直哉がやってくれた。その後はもちろん、ベッドでも甘やかされっぱなしの夜となった。
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