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二人のクリスマス(1)
祥吾と別れてからの2年は、クリスマスは一人で過ごしていた。デパ地下で、小さなケーキとデリの詰め合わせ、ハーフボトルのワインを買って帰って、少しだけ贅沢な気分を味わう。祥吾といたときは、かしこまったレストランが好きではなかった祥吾のために、家でチキンを焼いて、祥吾がケーキを買ってきて、ゆっくりと過ごしていた。
「年末年始は、実家に帰るの?」
「うん、少し顔見せようと思ってる。・・・直哉さんは?」
祐実の実家は、電車で1時間半ほどの距離にある。帰ろうと思えばいつでも帰れるのだが、泊りで帰るのは年に数回だ。
「俺は、ちょくちょく顔出してるから、どっちでもいいんだけど・・・。甥っ子たちにお年玉も渡さなきゃだしな。」
直哉には姉がいて、子どもが二人いるらしい。祐実には弟がいるが、独身で、まだ実家から通勤している。
「じゃあ、祐実が実家から帰ってくる日は、うちに来て。一緒にごはん食べよう。」
「はい。」
直哉が祐実の手を取り、ちゅっと指に口づける。
「さあ、来週はクリスマスデートだ。」
家でチキンを焼こうか、と提案したところ、それもかなり魅力的だけど、初めて二人で過ごすクリスマスなのだから、特別なものにしたい、と直哉がホテルを予約してくれていた。昼間は、祐実が行きたいとリクエストしたクリスマスマーケットを回る予定だ。
「楽しみにしてます。」
クリスマスマーケットの会場への乗り換え駅で待ち合わせをして、一緒に向かう。会場の大きな公園の噴水を取り囲むように店が並び、正面には大きなツリーが見える。ツリーの脇には飲食用のテーブルとベンチが並ぶ。奥のステージから、ゴスペルが聞こえてくる。にぎやかで異国情緒あふれる雰囲気に、二人は感銘の声をあげた。
「わあ・・・」
「俺も、初めて来た。こんなイベントがあるんだね。」
売店には、様々なクリスマスの小物が並ぶ。木製のクリスマスピラミッド、ランタン、くるみ割り人形。オーナメントや、ガラス細工もある。
「素敵・・・。こんなオーナメント飾ったら、かわいいだろうな・・・。」
天使をかたどったオーナメントを手にとって眺める祐実を、直哉が愛おしげに見つめ呟く。
「かわいい。」
「ね、かわいいですよね。」
自分に向けた言葉とは思わず無邪気に笑う祐実に、直哉は微笑みながら一歩近づく。
「家には、ツリーはないの?」
「テーブルの上に飾る、20センチくらいの小さなものしかないです。さすがに、飾りつけするほど大きなものは・・・」
「じゃあ、飾ろうよ。」
直哉が祐実の腰に手を回す。
「来年は、大きなツリー買って、このオーナメント飾ろう。」
祐実は直哉を見る。熱っぽい視線に頬を染めてうつむく。
「・・・それなら、来年、また来て選びたいです。」
その言葉に直哉も笑顔で頷く。
隣の店で、ランタンの形をしたスノードームが目に入った。ライトで光って、オルゴールも着いているという。
「これ、かわいい・・・」
祐実は心惹かれ、買おうかどうか、じっとスノードームをみて考え込む。
「ライトにもなるんだ。・・・いいね。」
直哉も手にとって見る。
「これに、する?」
祐実は驚き声をあげる。
「えっ・・・」
「クリスマスプレゼントは、ここで気に入ったものを買ってあげようと思ってたから。」
「いいんですか?」
「うん。じゃあ、決まりでいい?」
祐実が目を輝かせてうなづくと、直哉は店員に声をかけて支払いをすます。
「ありがとう、ございます。」
「いいえ。少し重いから、俺が持つね。」
直哉は、祐実と手をつないだ反対の手に紙袋を持つ。
「一回りしたら、何かお腹にいれようか。」
「はい、私、グリューワインが飲みたいです。」
「グリューワイン?」
「ワインに、シナモンとか果物を入れて、温めたものらしいです。」
「へえ・・・」
食べ物の出店が並ぶエリアをゆっくりと何があるのかを見て歩く。
「あ、ドイツビールもあるみたいですよ。」
「いいね、いろいろ試してみよう。」
グリューワインも、店によってスパイスやフルーツが違うらしい。祐実はリンゴのグリューワイン、直哉はビールにし、ソーセージの盛り合わせと肉の煮込み、シュトーレンを買い込んで、空いている席に座る。
「いただきまーす。」
ワインは甘くて飲みやすく、体が温まる。リンゴの香りがさわやかだ。
「これ、冬はあったまっていいですよね。家でも真似しようかな・・・」
つい呟くと、直哉が笑う。
「ちょっと、交換」
グラスを交換し飲み比べをしてみる。
「甘い・・・。確かに、飲みやすいな。」
「このビール、かなりコクがありますね・・・強い・・・。」
祐実の唇に、ビールの泡が付く。直哉がその泡を指でくいっとぬぐい、ぺろりと舐める。
「あんまり、飲みすぎるなよ。」
「はい・・・、ほどほどに。」
直哉の仕草に色気を感じて、祐実は頬を染める。
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