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年末年始(2)
直哉が前日から煮込んでくれた牛すじカレーは、すじ肉がトロトロでコクがあり、おかわりしたくなるおいしさで、祐実は改めて直哉の料理の腕前に唸っていた。
「んーーー、お店ですね、これ。」
満面の笑みを浮かべてカレーを味わう。
「そうか?そこまで祐実に言われると、作った甲斐があるな。」
直哉は嬉しそうにスプーンを口に運ぶ。
「そういえば、正月、帰省してるときに、祐実の話になってさ・・・。」
「えっ・・・」
カレーを食べている手が止まる。
「正月、電話してくれた後。部屋戻ったら、彼女かって聞かれて・・・。そうだ、って正直に答えたら、根掘り葉掘り聞かれた。もう、みんな酒入ってるからしつこくて・・・。」
げんなりした表情を浮かべる直哉に、祐実は皆に追及される直哉を想像して声を出して笑った。
「大切にしてる、って伝えたら、皆納得してくれたけどね。」
ふっと優しく見つめられて、祐実ははにかんで俯く。
「・・・私は、母親にだけ。少し話をしました。付き合っている人がいる、って。」
「なんか、言われた?」
添い遂げてほしい、と言われた・・・は、重いかな、と祐実は思った。
「・・・とくには・・・。あ、子どもはいるかの確認はされました。いないって答えましたけど。」
「そうか。」
そんな話をしながら食べ進め、皿が空になる。
「はあ、おいしかった・・・。ごちそうさまでした。」
「よかった。また作るよ。」
食べ終えた食器をシンクに運び、二人で洗い、片づける。こうやって二人で台所に立つことも、お互い何の抵抗もなく、ごく自然な流れだ。
「・・・祐実、あの・・・。」
直哉は言いにくそうに切り出した。
「嫌だったら、嫌って言ってくれていいんだ・・・。その・・・、うちの親に、会ってくれないかな・・・?」
「え・・・と。そうです、ね・・・。」
動揺で、言葉がとぎれとぎれになる。付き合っていて、プロポーズもされた以上、顔を合わせておいてもおかしくはない。祐実にとって、相手の親というものは鬼門でもあるのだが、結婚となると、避けて通れるものでもない。
「話をしたら、どんな子だ、会わせろ、会いたい、ってうるさくて。一応聞いてみるって話を終わらせたんだけど・・・ゴメン。やっぱり先走りすぎだよな。」
直哉は困った顔をしている。
「親御さんも、直哉さんの心配をしてらっしゃるんでしょうし・・・。バツイチってことは、ご存じですか?」
「それは、話した。それは、お前もバツイチなんだからお互い様だろう、って軽く流された。」
軽く流すことでもないのでは、と少し引っかかったものの、直哉の話に黙って耳を傾ける。
「祐実は、あんまり相手の親ってものにいい印象ないだろうから・・・。うちの親は、姉ちゃんの旦那ともうまくやってるみたいだし、わりと親しみやすいほうだと思うんだ・・・あ、でも婿と嫁だと感じ方が違うのか・・・?」
直哉は祐実の気持ちを気遣ってくれている。そういうところも、祐実が頼りに思うところだ、と改めて感じる。
「まあ、そのうちに、って伝えておくから。また祐実の心の準備ができたら。」
祐実ははっと我に返る。また、プロポーズの返事みたいに、先延ばしになってしまう。このままでは、いけない。
「直哉さん、心配なことはすこしずつ解消していこう、ってこの前言ってくれたじゃないですか。だから・・・、大丈夫です。本当は私から言い出さないといけないことなのに・・・。」
祐実は身を乗り出す。
「いや、俺は祐実のタイミングで、って思ってたから。急かすみたいなことになるのは不本意だから・・・。」
祐実は直哉のほうを見て微笑む。
「会って、お話してみたいです、直哉さんのご両親と。」
怖がってばかりいるだけじゃなくて、一歩、踏み出そう。
こうやって、自分を大切にしてくれる直哉のためにも。自分のためにも。
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