ハッピー・バレンタイン(1)

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ハッピー・バレンタイン(1)

 年度末に向けて祐実の担当しているプロジェクトも佳境に入り、年が明けてから忙しい日々が続いていた。直哉のほうも、部門全体に目を行き届かせ、問題の起こっているプロジェクトがあればフォローに入りつつ、来年度に向けた準備も始まっていて、毎日忙しそうだった。  平日は毎日帰りが遅く、とくに直哉は土曜日も出勤することが多かったので、土曜の夜から日曜にかけて、直哉の家で二人の時間を作っていた。一人でゆっくりと体を休めたいのではないかと祐実は気遣う。 「大丈夫ですか、忙しいのに・・・。」 「むしろ、祐実といたほうが休まる。祐実のほうも、忙しそうだ。大丈夫?」 夕食を済ませ、ソファへ腰かけると、直哉が祐実の肩に手を回す。 「進捗は、なんとかオンスケで進んでます。直哉さんがやってたみたいに、デイリーでチェックして、遅れが出そうなところは早めにフォローしてってチームで回してます。」 「無理しないようにね。」  直哉は祐実の髪の毛を撫でながら微笑む。直哉の手が心地よくてうっとりと目を閉じると、そのまま眠ってしまいそうになる。祐実も疲れがたまっているのか、ソファでテレビを見たりしていると、二人一緒に寝落ちしてしまっていることがある。 「直哉さんこそ・・・。毎日、スケジュールびっしりじゃないですか。」  直哉のスケジュールを見ると、定時間内はなにかしらの会議でびっしりと予定が埋まっている。定時間外や土曜日に自分の作業をこなしているのだろう、と予想がつく。 「まあ・・・、今はね。時期的に仕方ない。一か月もすれば、少し落ち着くと思うよ。来週は、なんかうまいものでも食べに行こう。」 「家でも、全然大丈夫ですよ。・・・平日は、ちゃんと食事してます?」 「んー、実はこのところ適当になってる。」  昼は自席でメールを片付けながらおにぎりかサンドイッチ、夕方、少し栄養補助食品を口にして、夜遅く立ち食い蕎麦やラーメンで済ませることが多いという。祐実自身も、作り置きが切れ、疲れが出てくる週の後半はコンビニ弁当になってしまうことが多かった。 「弁当、作ってくれてもいいよ。」  涼しい顔で直哉が覗き込む。どう答えようか躊躇している祐実に 「いやいや、冗談。祐実も大変だから、それはいい。」 直哉は祐実を抱き寄せる。  せめて自分が弁当を作っている日だけでも、同じものを食べられたら・・・と思ったが、会社で弁当を渡すのは憚られた。二人の関係が公になるのはどうなのだろう、と思っていたからだった。 「バレることを心配してるんだったら、大丈夫だよ、俺はね。」 ふっと直哉の方を見る。 「祐実がやりにくくなっちゃうのは嫌だから。祐実が隠しておきたいなら、それでいいよ。俺は周りから何か言われたら、いいだろう、って自慢するだけだし。」 そういって笑う。  二人とも、バツイチとはいえ、独身同士なのだから、付き合っていることについては何の問題もない・・・と、思う。しかも、プロポーズもされているのだ。そして、祐実も最初は思ってもいなかったくらい居心地がよくて、このまま一緒にいたいと思っている。ただ、もしこの関係が破綻したら・・・と考えてしまう自分もいる。 「そんなに、考えこまなくてもいいよ。」 直哉が祐実の顎に手を添え口づける。 「癒し、もらっていい?」 祐実がうなづき、直哉の肩に額をのせる。 「私も・・・、ほしいです。」 「体、大丈夫?」 「私、ですか?大丈夫ですけど・・・」 「ほら、胃の調子が良くない、って言ってたから・・・」 祐実の肩を抱いた手に力がこもる。 「ああ・・・、そんなに気にしてもらうほど具合が悪いってわけではないので。」 「いや、少しのことでも気になる。あまり長引くようなら、ちゃんと休んで、医者に行った方がいい。」 心配そうな顔の直哉に、祐実はわかった、というように頷いた。
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