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ハッピー・バレンタイン(3)
バレンタイン前の週末、祐実は直哉の家でシチューを作りながら、休日出勤になった直哉の帰りを待っていた。
テーブルの上には、デパートで買ったショコラの詰め合わせの箱。冷蔵庫の中には、エビと卵のサラダ。フランスパンも、来る途中のパン屋で買ってきた。
今日は、冷える。祐実は、ガスコンロの火を消すと、久しぶりに買ってきたルイボスティーを入れて、ソファに足を延ばして座り、ひざ掛けをかける。
夕飯はシチューにしたよ、とメッセージを送る。少しすると、今日はあまり遅くならずに帰れそうだ、っと返信がくる。祐実の顔が綻ぶ。
「ただいま。寒くないか?風邪ひくぞ。」
帰ってきた直哉が祐実に毛布をかける。待っているうちに、ソファでうたたねしてしまっていたようだ。前にも同じようなことがあったような・・・と祐実は苦笑する。
「ごめん、うとうとしちゃってたみたい。おかえりなさい、今日は寒かったよね。」
「うん、寒かった・・・。祐実、大丈夫か?あんまり顔色が良くないような・・・」
直哉が祐実の額に手を添える。
「熱はないみたいだけど・・・ちょっとあったかい。俺の手が冷たいからか?」
「ふふ、そうかも。シチュー温めるね。お腹空いたでしょ。」
祐実がソファから立ち上がろうとしたとき、くらっと立ち眩みがして、ふらついてしまった。
「祐実っ・・・」
直哉が慌てて抱きとめる。
「ご、ごめん、急に立ち上がろうとしたから・・・」
祐実は支えてくれる直哉に笑顔を向けた。
「やっぱり、ちょっと疲れてるんじゃないか?・・・無理せず休んでればよかったのに・・・。」
「ううん。ほんとに、急に動いちゃったからなだけだから。」
「シチューは、俺が温めるから、座ってて。コンロの上の鍋でいいんだよな。」
直哉は祐実をソファに座らせて、台所へ向かう。
「このパンを切ればいいのかな・・・?」
テーブルの上のフランスパンを手に取って振り返る。
「うん。あと、冷蔵庫にサラダが入ってます。シチュー温めるときに、タッパーに入れてあるゆでたほうれん草を少し加えてもらえたら。」
「OK」
パンをきり、温めたシチューを皿に盛り付けて、テーブルの上に並べていく。
「さ、できた。」
直哉がソファに座る祐実のところへ来て、手を出す。
「大丈夫?立てるか。・・・食べられるか?」
「うん、ほんとに大丈夫・・・。ごめんなさい、疲れてるところ。」
「これくらい、何でもないよ。」
直哉の手を取ってゆっくりと立ち上がる。
「うん、平気。ありがとう。」
直哉は心配そうに祐実をエスコートし、椅子を引いて座らせる。
「ほんとに大丈夫だから・・・」
祐実は笑顔を向ける。直哉は心配そうに祐実を見ている。
「食べよ。私もお腹すいたかも。」
「食欲があるなら、大丈夫かな・・・」
そうつぶやきながら、スプーンを手にとって、シチューを口に運んだ。
「うん、おいしい。あったまるよ。」
祐実も一口、口に運ぶ。
「うん、おいしくできた・・・。ちゃんとホワイトソースから作ると、やっぱりおいしいね。」
「ホワイトソース・・・。これ、市販のルーじゃないんだ・・・」
直哉は感心した顔をしている。
「もう、すっかり祐実に胃袋掴まれてるな。」
直哉は笑う。祐実も笑顔になった。
「そこに置いてある箱は、バレンタインのチョコレート?」
「うん。・・・ごめんなさい、無造作に置いてて・・・」
「全然、そんなことは気にしないよ。今日はまだバレンタインじゃないけど・・・食後のデザートにもらってもいいかな。」
祐実は笑顔で頷く。
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