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short side story 1(直哉)
一目、彼女を見た時に、かわいい子だな、と思った。
採用面接で、こういった主観的な感想・・・、とくに異性に対して持つことは良くない、ということはよくわかっていた。だから、その後はその気持ちを捨てて、面接を続けた。
自分以外からも、質問が飛ぶ。前職での経験、転職理由。彼女の経験や知識は、今、自分のチームで必要としているもので、世代的にも、不足している年代だ。その点は、上司とも意見が一致した。
質問の受け答えもスムーズで、表情もいい。もちろん、自分の好みのタイプであるということを除いても、だ。
ただ、今は売り手市場だ。内定を出しても、うちの会社に来てくれるかどうかはわからない。
面接からひと月経ったころ、人事部門の担当者から、彼女が入社内定したと連絡をもらったときは、心のなかでガッツポーズをした。喜んで人事との打ち合わせに参加したとき、資料にある彼女の苗字が面接のときの苗字と異なることに気がついた。
ああ、結婚したのか・・・と思った。うちの会社は、福利厚生も手厚い。結婚を機に、転職を考えていたのかと合点がいった。
入社後、自分のチームの一員として2年、一緒にやってきた。仕事ぶりは期待通りで、チームのメンバと協力してうまくプロジェクトを回してくれている。自分とはなかなか打ち解けてもらえていないような雰囲気もあるが、上司として一線引かれているのだろう、と納得させていた。
そして、昇進祝いの飲み会の、あの時。
隣に座って話せることが、いい年して嬉しかった。これからは、もう自分はチームを離れるし、座席も離れて、一緒に仕事をする機会も減っていってしまう。それなら・・・と、思い切って話してみたのだ。
すると、
「・・・声がタイプなんです。」
なんて言われてしまった。そんなことを言われるなんて思っていなかった。お世辞だとしても、うれしい。酒の力もあるのか、少し打ち解けて話してくれた。・・・やっぱり、かわいい。
残念だ。話す内容も、いろいろと合いそうなのに。これで独身だったら・・・、と思っていたら。
「バツイチなんです。」
思ってもみないカミングアウトだった。
彼女と離婚した奴は、見る目がない。なんてもったいないことをしているんだ。話を聞くと、まだ、離婚したことを引きずっているわけではなさそうだ。
「俺と、付き合ってほしい。」
上司だとか言ってる場合じゃあない。絶対に、堕とす。
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