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short side story 3(祐実の実家)
祐実の妊娠が発覚した後、祐実が事前に両親に状況を説明し、直哉は祐実の実家へ挨拶へ向かった。
祐実は、スーツを着てやや緊張した面持ちの直哉に、こんな状況ではあるが心をときめかせている。
「祐実から、話は聞いています。プロポーズはすでに受けていて、返事をしようとしていたところだったと。」
直哉の挨拶を受けて、父親が口を開いた。
「祐実さんとの結婚を、認めていただけますか。」
「それは・・・、はい。うちの娘を、よろしくお願いします。」
直哉は、表情を緩め、ふうと一息ついて、出されたお茶に口をつけた。
「・・・それで、すみません。順番が、逆になってしまって・・・。」
直哉が両親に向かって頭を下げる。父は少し難しそうな顔をしていたが、母はにこやかに答えた。
「最近は、授かり婚、っていうのでしょう?嬉しい知らせが一度に二つもあるなんて、いいことじゃない。」
祐実は涙が出そうになる。父がぼそりと呟く。
「まあ・・・二人とも二度目ということになるんだし、なにかきっかけがないと踏み出せないってこともあるのかもな。」
「祐実には・・・お正月に少し話を聞いたときに、言ったんだけど。」
祐実の母が、ゆっくりと口を開く。
「出来れば、今度は添い遂げてほしいな、と・・・思ってます。」
祐実はそっと直哉のほうを見る。直哉はぎゅっと祐実の手を握って、まっすぐ両親のほうを見る。
「もちろん、そのつもりです。・・・自分のほうが、祐実さんにぞっこんなので・・・末永く、と思っています。」
祐実は赤面してうつむく。両親は、安心したように笑顔を見せた。
その後は、両家の顔合わせの日取りや入籍をいつにするかを話し合い、祐実の体調を心配した直哉が、まずは自分の家で一緒に暮らし始めたいと申し出て、両親は二つ返事で了承した。
母が用意しておいてくれた食事をとり、片づけを済ませると、母がアルバムを抱えて戻ってくる。
「ちょっと、お母さん・・・」
「せっかくだから、少し見ていかない?高校の卒業アルバムは、そこの本棚に入ってるわよ。」
祐実は渋々立ち上がって、本棚から高校の卒業アルバムを取り出す。
「かわいいなあ・・・。」
幼いころの写真を見て直哉は感嘆の声を上げ、祐実は目線を逸らす。
「かわいいでしょう、このころはほんとお転婆で目が離せなかったのよ。」
「へえ・・・。少し意外ですね。」
「でしょう。」
そんな話をしながらページをめくっていく。祐実も、懐かしく感じながら写真を眺めていた。直哉が、高校のアルバムに手をかける。
「あれ、女子校・・・?」
「はい。言ってませんでしたっけ。」
「うん、初めて聞いた。・・・制服、かわいいね。ブレザーと、チェックのスカートだったんだ。」
「色の組み合わせが気に入ってました。」
「部活は?何してたの?」
「テニス部です。・・・あんまり、上手くならなかったですけど。」
アルバムのページをめくりながら、祐実を探す。部活動のページになり、テニス部に祐実の姿を見つける。
「見つけた・・・!これだ!」
白と紺を基調としたデザインのユニフォームに、ラケットを手にした祐実が写っている。
「かわいいな・・・。」
直哉は満足げに写真を眺める。祐実は、ずるい、という気持ちを込めた言った。
「今度、直哉さんのも見せてくださいね。」
「うん、いいよ。」
「かわいかったな・・・女子高生の祐実。・・・まあ、今もかわいいんだけど。」
実家からの帰り道、ハンドルを握りながら直哉が口を開いた。
「あんな若いときに出会ってたら、どうなってただろう。・・・間違いなく、夢中になってただろうけど。」
「また、そんな・・・。もっと若いときに、とは思いますけど。」
直哉はきゅっと祐実の手を握る。
「今の祐実は色気も増してるから。」
祐実は頬を染めて目線を向ける。
「直哉さんも、きっと、そうですよ。」
直哉はニコリと微笑む。
「ちなみに・・・制服って、まだ実家にあるの?」
「どうでしょう。捨ててないかも・・・。」
直哉の方を見上げると、ニヤリとなにかたくらんでいるような顔をしている。はっと察した祐実は慌てて宣言する。
「・・・着ませんよっ・・・。もう、さすがに無理です・・・っ。」
「そうかなあ・・・。全然、イケそうな気がするけど。」
直哉は手のひらを引き上げて、手の甲に口づけた。
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