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交際開始(2)
遅めの朝ご飯にパンケーキを食べよう、と言われ、お店のオープン時間に合わせて8時半に目的地の駅で待ち合わせることにした。
目的地まで、祐実の自宅からは一時間くらい。六時半に目覚めて、ホットミルクをお腹に入れる。通勤服からなんとかデート向けにコーディネイトした洋服に着替え、化粧をする。休みの日に、早起きして化粧をするのもかなり久しぶりのことだった。
予定通りに家を出て、駅に向かう。いつも出勤するよりも少し早い時間だが、週末のせいか、電車の中も人は少なく、座ることができた。
10分前に改札口につくと、すでに小沢が立っていた。チノパンに、Tシャツとカーディガンを合わせている。
初めて見た私服姿に、そういう感じか、と遠くから見入ってしまった。その姿を観察されていたようで、開口一番、小沢が心配そうに尋ねる。
「なんか、変・・・?」
「や、そんなことはないです。」
スーツ以外の姿が新鮮でつい見入ってしまった、と心の中で呟いた。
「ちょっと、どの辺がダメ出しポイントか、教えてほしいんだけど・・・」
小沢は、カーディガンの襟元を整えながら聞いてくる。
「や、ほんとにダメ出しとかは無いです。迷彩柄とか着てこられたら、ちょっと個人的には・・・」
「迷彩柄は好みじゃないのか・・・。覚えておこう。」
「部屋着なら全然オッケーですよ。あとは、今日のコーデだと、スニーカーが白なら私的には完璧です。」
「・・・よし、パンケーキ食べたら、スニーカー買いに行くぞ。一つ目的ができた。」
「そんなつもりで言ったわけでは・・・」
祐実は慌てて小沢のほうを見る。
「いいんだよ、安藤さんの好みを知りたい。」
「私なんか、通勤服の組み合わせですから・・・」
何度か会社に着て行っている組み合わせかもしれない・・・と思いながら、白のブラウスに、ピンクベージュのスカートを合わせてきた。
「それでも、可愛い。似合ってるよ。」
ストレートに褒められて、祐実は頬を染める。
オープンと同時に入店し、案内された席に座る。
「よく、来るんですか。」
注文を決めて、サーブされた水に口をつけながら、祐実が尋ねる。
「よく来るとまではさすがに言えないけど、たまに、ね。朝イチだと並ばなくていいし、人も少なめで、男一人でも入りやすい。」
小沢も水の入ったコップを手に取る。店内を見渡すと、なるほど、自分たちの他にはまだ3組ほどしか客がいない。
「あ、こうやって、連れがいれば、並ぶのも平気だから、もしどこか行ってみたい店が行列店でもいいよ。さすがに、いくら好きでも、男一人でパンケーキの行列に並ぶのは、ちょっと恥ずかしい・・・」
小沢が照れた笑顔を見せて、祐実も笑顔になる。
「でも、一緒に行ってくれるなら、これまで敬遠してた店にチャレンジもできるな・・・」
小沢が目線を上げて、候補の店を考えているようなそぶりをみせる。
「行ってみたいお店があるんですか。」
「うん。そこは、オープンと同時に満席になるって話で・・・何度か、見にいってみたことがあるんだけど、確かにいつも並んでいるんだよね。」
「へえ・・・そんなに人気なんですか。」
「そうらしい。ただ、そこは食べたことがないから・・・。ここの店は何度か来ていて味も知ってるから。」
パンケーキや行ってみたい店の話をしていると、注文したパンケーキが運ばれてきた。
「わあ、おいしそう・・・」
メニューにのっていた写真と違わず、ふんわりとした厚みのある小ぶりなパンケーキが3枚、上にはホイップバターがトッピングされている。
「いただきまーす。」
ナイフを入れると、ふわふわで、やわらかい。一口大にカットして口にいれると、ふんわりとした舌触りが心地よく、卵の香りが口いっぱいに広がる。
「ふわふわ・・・」
「初めて食べたときはびっくりしたよ。こんな分厚くてふんわりしたパンケーキもあるんだって・・・。軽くてぺろっと食べられちゃうし・・・。」
「ほんと、いくらでも食べられそう・・・」
添えられたシロップをかけると、また違った味わいになり、次々と口の中に消えていく。
「うーん、うまいね。」
小沢は満足そうに微笑む。
「ほんと好きなんですね、パンケーキ。」
小沢の表情を見て、祐実も笑顔になる。
「美味いもの食べてると、自然に笑顔になるよね。」
「ふふ、わかります。」
小沢はコーヒーカップを手に祐実に視線を移す。
「けど、食事って、一緒に食べる人も重要だと思うよ。・・・今日は、安藤さんが一緒にいるから、よけいに美味しく感じる。」
「また、そんなこと言って・・・」
優しく見つめられて、祐実は照れを隠すようにコーヒーカップに口をつけた。
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