交際開始(3)

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交際開始(3)

「休みの日って、何してる?」 「え、私ですか・・・?」 小沢に尋ねられて、コーヒーを一口飲んでから答えた。 「そうですね・・・。目覚ましかけずにゆっくり寝て、起きたら平日やりきれなかった家事して・・・お弁当用の作りおき作ったりします。」 「そういえば、弁当派だったね。・・・料理、好きなの?」 「食べるの、好きですし。料理している間って、無心になれるっていうか。」  祥吾は、祐実が作った料理をおいしい、といってよく食べてくれた。朝は自分の分と祥吾の分の二人分、お弁当も作っていたなあ・・・と思い出す。 「俺も好きだよ、料理。まあ、あんまり栄養バランスとかは考えてないから、自分の食べたいものばっかりだけど。」 「何、作るんですか?」 「ほんとに、食べたいものを、食べたいときに。・・・ハンバーグとか、ギョーザとか。冬は、おでん作っておくと、帰ってからの楽しみになるね。」 チャーハンやラーメンを想像していた祐実は少し驚いた。 「思ってたよりも本格的で、ちょっと驚いてます。」 祐実は正直に言う。小沢はふふ、とコーヒーカップに口をつけながら微笑む。 「安藤さんは、何作る?得意なものとか。」 「得意なもの・・・。」 祐実は頭のなかを思いめぐらす。 「小さいおかずを、ちょこちょこ作るのが好きなんですよね。副菜的な。・・・メインになるおかずだと・・・生姜焼きとか、ロールキャベツとか?」 生姜焼きは、祥吾がよくリクエストしてくれた。キャベツの千切りをたっぷり添えて、肉と一緒に玉ねぎを焼いて、上に乗せる。 「この玉ねぎと一緒に食べるのが美味しいんだよね。」 とよく言ってくれた。  祐実はふと気づく。今日は祥吾のことをよく思い出してしまう。小沢と祥吾を比べようとしているのだろうか。 「うまそう・・・。ロールキャベツなんて、もう長いこと食べてないな・・・」 たしかに、ハンバーグのタネを作って、キャベツをゆでて、巻いて、煮込んで・・・と、少し手間のかかる料理だ。 「味付けは何?コンソメ?トマト?」 「そのときの気分によりますけど・・・。まずはコンソメですかね。コンソメベースで作っておけば、あとからクリームにもトマトにもできますし。」 「いいね。臨機応変で。・・・いつか、食べてみたい。」 小沢はニコリと笑う。祐実はそれには返事をせずあいまいな笑みを浮かべる。  パンケーキを食べ、コーヒーを飲みながら、休日の朝を過ごす。こんな時間は久しぶりだ・・・と祐実は思う。一人になってから、休日は家でだらだらと過ごすことが日課になっていた。目覚ましを掛けずに寝て、起きたらコーヒーを淹れ、ぼうっとしながらテレビを見る。結婚していたときは、ショッピングモールに行ったり、映画にいったり、食事にいったり・・・家にいないことが多かった。祐実も出かけるのが好きだったが、一人だと、どうしても出不精になってしまう。 「小沢さんは、何してるんですか?休日。」 今度は、祐実が尋ねた。 「俺?俺は・・・そうだな。安藤さんと同じように家事したり、車走らせて、出かけた先のうまいもの食ったり。アウトドア系も好きだよ。今の季節だと、潮干狩りなんかも楽しいんだけど・・・」 「潮干狩り?」  祐実は思わず前のめりに反応する。小沢は祐実の反応に少し驚きながらも笑顔で返す。 「好き?潮干狩り。」 「行ったことないんです、潮干狩り。」 「ほんとに?・・・ちょっと、まって。」 小沢がスマホで何か調べている。 「うん。・・・再来週の土曜、大潮でいいかも。予定、大丈夫?」 「え、連れてってくれるんですか。」 祐実は期待の目で小沢を見る。 「行ったことないって言われたら・・・それは連れていくしかないだろ。車だけど、いいか。」 「はい、車酔いとかは平気なほうです。」 「・・・や、えっと・・・。」 「あ、免許は持ってますけど、ずっと運転していないんで・・・。」 「運転は、俺がするから・・・。いや、大丈夫なら、いいか。」  小沢は軽く戸惑いがちに自己完結しようとする。祐実はその反応を見逃さなかった。 「え、何ですか。何かあるなら、ちゃんと言ってください。」 「・・・俺と二人で、車移動になるんだけど、いいかなって。」 「何か、問題でも?」 祐実は不思議そうに尋ねる。小沢は、ふうと息を吐いた。 「・・・ほんと、意識していないというか・・・。はっきりいうけど、俺と二人きりで、車で長時間移動するっていうことなんだけど。」 「二人でいくなら、そうですよね。」 「・・・俺と二人きりだよ?」 「今も、二人じゃないですか。」 「車っていう密室になるんだけど?」 祐実は、小沢が何を気にしているのか、まだよく理解できなかった。 「口説かれてる相手と、二人きりになって、平気か?ってことだよ。」 「でも、小沢さん、無理なことはしないですよね。信用してますもん。」 祐実が無邪気に返答すると、小沢は頭を抱える。 「・・・了解。」 「潮干狩りって、どんな服でいけばいいですか?あ、ビーチサンダルとか要ります?来週、買い物行かなきゃ・・・。」 「よし。じゃあ、これから見に行こう。もう、大丈夫?」 パンケーキの皿は、とっくに空になっている。祐実がうなずくのを見て、小沢は伝票を持って席を立った。
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