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「これ、100万が貯まるんですよ」
「ああ……。そう」
俺はそう言うと、その場を立ち去ろうとした。
100万円が貯まる貯金箱なんて、今時どこにでも売っている。
「待ってください。あなたがお金を入れなくてもいいんですよ~!」
俺が立ち止まると、男性はニコニコしたまま続けた。
「笑顔で過ごすだけで貯まるんです! ねっ、すごいでしょう?」
この人は一体、何を言っているんだろう……。
おかしな人には関わらないのが一番だ。
さっさと歩き出すと、男性はいつの間にか目の前に移動してくる。
そして、俺にでっかいブタの貯金箱を渡してこう言う。
「一か月。一か月間、笑顔で過ごし続ければ、勝手に百万が貯まります!」
「……そんなの無理だろう。泣きたい時や落ち込む時もあるんだから」
「100万を貯めるのに笑顔は必須ですが、喜怒哀楽で気を付けてほしいのは怒るの感情です」
「怒る?」
「そう。泣いたり落ち込んだりすると、貯まりはしません。で・す・が!」
男性はそう言うと、こちらに顔を近づけてきてさらに続ける。
「怒りの感情は、貯めた分を0にしてしまいます」
「じゃあ、怒らなければ一か月で100万円?」
「はい」
俺はごくりと唾を飲み込んで、こう聞いた。
「この貯金箱は、いくら?」
男性は途端に笑顔になって答える。
「お金はいりません」
「え?」
「これは我々が開発した新商品なので、無料です」
「え、無料?」
「はい。それじゃあいつも笑顔で100万を貯めてくださいね~」
男性はそう言うと煙のように消えた。
俺はでっかいブタの貯金箱を抱えたまま、ぽかんとしていた。
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