スマイル100万円!

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 その日、家に帰ると、僕の部屋に男性がいた。  ブタの貯金箱をくれたあの不思議な男性だ。 「おい、不法侵入だぞ」 「貯金箱の回収をしにきただけですよ」  男性はそう言うと、ブタの貯金箱を抱えていた。 「ああ、もうどうせ0になったしな」 「ええ。今は0ですが、あなたが笑顔で過ごしたおかげで、ラブコインが貯まりまくりでしたよ」 「は? ラブコインってなに?」 「ご説明しませんでしたっけ? 笑顔でいると縁を引き寄せるんです。笑顔で貯まるのはラブコインです」 「お金じゃないの?」 「違いますよ~! そんなうまい話があるわけないでしょ~!」  男性はそう言うと、豪快に笑った。  こいつ、殴ったろか………。 「あなたが頑張ってくれたおかげで、ラブコインはたっぷり貯まって、ご縁があったはずですよ、今日」  男性の言葉にハッとする。  まさか、今日、痴漢から助けた女性は……。 「そういうわけで、これは回収しますね~。また困っている人に貸し出しますんで」  男性はそう言うと、こちらに手を振る。 「ま、待ってくれ! あなたは一体、何者なんだ?」 「こう見ても恋のキューピッドです」  男性はそう言ってニカッと笑うと、煙のように消えた。  俺は誰もいなくなった部屋でポツリと呟く。 「……キューピッドには見えねーよ」  その直後、スマホに連絡が届く。  今日、助けた女性からの食事のお誘いだった。    結局、100万円はゲットできなかった。  でも、お金以上に大事なものを手に入れられたんだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加