正義を語る者達へ告ぐ

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 ***  神様は言った。自分を神と呼びたくなければ自由にすればいい、と。己の姿は、下界で人間達が想像しているようなそれとは大きく違う。人を模しているものではないし、下界で伝わっているどんな宗教の神様の名前もついていない。ただし、己が死者達に対して最後の審判を下す存在であるのは事実であり、自分の審判なくしてこの真っ白な部屋から出ることは何者も叶わないのだと言った。  審判を受け、それを受諾することで、集められた死者達はこの何もない真っ白な空間から出ることができるのだという。地獄行きであると言われて納得ができなければ、すぐに受諾して出て行く必要はない。ただし、受諾しない限りは永遠に何もないこの場所に、気が狂うまで閉じ込められることになる。それもそれで拷問であるのは間違いないだろう。大きな苦痛はないが、それでもじわじわと孤独と退屈に精神を削られていくのは間違いないのだから。なんせ、この場所に他に住人はいても、みんな赤の他人ばかり、自分のことで精いっぱいな者達ばかりであるのだから。  桃太郎もまた。すぐに己の審判の内容を受け止められず、一時保留の状態でこの白い空間をうろついている状態だった。己は人々の役に立つことをしたはずだ。それなのに、地獄行きが選択肢として提示されるなんて納得がいかない。勿論、神は天国行きを選んでもいいと言ったが、それはそれで条件があるとも言われている。だがその条件は、簡単に承服できるものではなかった。ゆえにそちらも選べず、今まさに不満をためこんでいるわけだったが。 「あなたも納得がいかないのね。審判の内容に」 「!」  ふと声をかけられて振り向けば、足元に座り込んでいる女性がこちらを見ていた。女性だ、とわかったのは可愛らしいエプロンを着ていることと、柔らかい声色からの判断である。何故ならその人物は正確には“人”、ではなく。二足歩行の、人間のような体つきをしたヤギであったからだ。 「……あなたも、不満で此処に残ってる人?」 「ええ」  言葉が通じるなら、深く考える必要はないのかもしれない。この白い空間には、人間ではないと思しき外見の者も散見される。どうやら、あらゆる異世界の住人がこの場に集められ、審判を受けているということらしい。あの巨大な赤い鳥の神様は、それだけ凄い力を持った存在ということなのだろうか。 「私はね、地獄に落されるかもしれないんですって」  真っ白なヤギの女性は、ふん、と鼻を鳴らして言った。 「私達は森で、草食動物たちだけで平和に暮らしていたのよ。ところがある日、肉食動物のオオカミがやってきて私の可愛い子供達を食べてしまったの。私は怒り狂って、狼の腹を裂いて子供達を救出したわ。そして、その腹に石を詰め込んで縫い付けてやったの。そのまま苦しんでくれれば万々歳、川のすぐ近くだったから落ちて溺れ死んでくれてもいいと思ってね」 「う、うわ」  そりゃまた、とんでもなくえげつない行為をしたものだ。オオカミは死んだのか、と尋ねれば彼女はもちろんよ、と頷いた。
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