正義を語る者達へ告ぐ

4/6
前へ
/6ページ
次へ
 ***  桃太郎は、白い空間を歩き回りながら、他にも多くの存在と話をしたのだった。  魔女を暖炉に投げ込んで殺したという娘は、“そうしなければ自分達が殺されていたに決まっているから”と己を正当化した。己と弟で魔女のお菓子の家を食べた上、自分達が本当に殺されそうになっていたという確証はどこにもなかったにも関わらず。  自分達の亀を助けた猟師に玉手箱を渡し、老人に変えたという女性は。自分が何故天国に行けないのか、本気で分かっていない様子だった。玉手箱を開ければ老人になってしまうというのは最初にちゃんと説明した、自分は悪いことなど何もしていないのに、と。  三人の妖精たちは、ひたすら自分達は王国を守っただけだと騒ぎ立てた。悪い魔女から王国を守るために、彼女をパーティに呼ばなかっただけ。みんなで彼女をのけものにしたわけではないし、それで悲劇が起きたならそれは自分達のせいではなく魔女が悪だったからなのだと。  彼女たちの言い分にも、一理ある面はあるだろう。大きな罪から小さな罪、それぞれの正義にそれぞれの信念。それらを照らし合わせた結果すれ違いが起きたり、誰かの死を招くというのはなんら不思議なことではないからだ。ただ、第三者として話を聞くうちに、桃太郎はどんどん背中が冷たくなるのを感じたのである。  彼女たちは誰一人、自分が正義を成したと疑ってはいない。  誰かに責められるようなことなどしていない、自分達は信念に従って善行を成し、あるいは悪を討っただけだと主張する。その結果、傷ついた誰かの痛みを都合よく見なかったことにして。 ――僕も、そうだったのか?  母山羊の話を聞いて、狼にも家族がいたのかもしれないと思った。そして、気づいたのだ。自分は自分の退治した鬼にも家族がいて、死んだら悲しむ人がいるかもしれないなんて思っても見なかったということを。彼等が何故、漁村の人々から金品を奪ったり、人を殺したりしたのかをちゃんと聴こうとはしなかったと。漁村の人々の主張だけを聴いて、彼等を海賊行為を行う怪物とみなして殺し、正義を盲信していたのではなかったかと。 ――鬼は、悪ではなかった?だから、神様は……あんなことを言ったのか?  確かめなければならない。桃太郎は、再び神様の元へと歩を進めた。自分が見て見ぬふりをしてしまったかもしれない真実と、今度こそ向き合うために。 「神様、教えてください。僕が退治した鬼達は何故、漁村の人々を殺したり、金品を奪ったのですか。鬼達の正体とは、なんだったのですか」  桃太郎の問いに、神様は赤い翼を震わせて答えた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加