正義を語る者達へ告ぐ

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正義を語る者達へ告ぐ

 死んだあとで、人がどうなるのかなんてことは誰にもわからない。生きている人間が、死者の国を覗くことなどできないからだ。  ただ一部の宗教などでは、神様や仏様の前に引き出されて、審判を受けるらしいとは聴いている。だからなんとなく桃太郎も、自分も死んだらそうなるだろうと思っていたのだ。  そして、己が地獄に堕ちるかもしれないなんて、考えたことさえなかった。  自分は鬼を退治して、みんなを救った英雄。漁村の人々に感謝され、おじいさんとおばあさんに自慢の息子だと言われ、最後にはクマに追われていた子どもを体をはって助けたことで生涯を終えたのだから。悪行を成したつもりはまったく無かったし、自分の人生は生まれてから死ぬまで正義の味方と呼ぶにふさわしいものだったと自負している。ゆえに。 「桃太郎よ、選びなさい」  目の前の。  赤い大きな鳥のような姿をした、神様のような存在にそんなことを言われた時は、心底驚かされたのである。 「お前の行く末を、お前自身で選ぶのです。自分が天国に行くべきか、地獄に行くべきかを」  神様は言ったのだ。  桃太郎、お前にもまた罪はある、と。
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