本編

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今日はとことん母に甘えたいニアに付き合って、今日は寝かしつけるまでの間とことん甘やかすことにした。風呂椅子に腰かけたあと脚の間にもう一脚椅子を置き、そこにニアを座らせる。頭を洗ったあと香油を塗り魔王様そっくりの紫檀の髪をケアする間、ニアはひたすらうっとりとした瞳のまま大人しくされるがままになっていた。 「なんだか嬉しいなぁ。僕、魔王様の御髪もこうやってケアしてみたかったんだよね」 「お前に給仕のような真似はさせまいと思っていたが……これはこれで……」 「あ、寝ちゃ駄目だよー」 むにゃむにゃと口の動くニアが椅子から落ちないように抱きかかえながらお湯を流す。お腹が膨れて身体を温めたせいか、ニアはぐてんぐてんになっていた。慢性的な寝不足のせいもあるだろう。けれどこんなにも無防備な姿を晒されると、信頼を得ているのだとわかって少し嬉しくなってしまう。 「もう少し頑張って、身体洗ったら出ようね」 僕も一緒に身体を清めてしまいたかったが、仕方ない。ニアを寝かしつけたあともう一度入ればいいかと泡のついた手のひらをお腹に滑らせた途端、ニアの身体がびくりと震えた。 「ん、んぅう……」 「わっ落ちちゃうって」 早くベッドで寝かせてあげたくて気にせず身体を洗い始めると、もぞもぞも身を捩って僕の手から逃げようする。慌てて身体を抱え直すが洗い始めるとその度に体勢が変わり、石鹸でぬるついたニアの身体と擦れ合うから妙な気を起こしそうで怖くなった。どうにか背中とお腹を洗って太腿に指を這わせると、ニアの開いた脚に視線が向くのは仕方のないことだった。 だから不可抗力だ。兆しかけているそこが視界に入ったのは。 「……っっ」 駄目だ駄目だ駄目だ。駄目なのに駄目なのに駄目なのに。 意識すればするほど若くて美味しそうな男性器に意識が集中してしまう。頬が紅潮する。理性が蕩けて、下半身にある穴が疼いてしまう。 ニアが現れてから、僕の身体は一度も使われていない。魔王様がいないのだから当然だ。淫魔に生まれたからには一生淫魔だが、僕の身体も心も、全て魔王様に捧げられている。あの人のいない今、僕の身体を慰めていいものは存在しない。 ──……ニアがうたた寝している間に、少しだけ。 清潔なシャンプーと香り高い香料の匂いがする首元に鼻を埋め、すんと匂いを確かめる。古びた紙とインクのにおい、あとは植物の青臭さと土のにおい。そしてそれらを掻き消すように、強い魔族特有の形容し難い匂いがする。 ただそこにいるだけで僕の興奮剤になって理性を蹂躙する、魔王様と同じ匂いだ。この人の足元に跪く許可がほしくなる。縋って媚びて信頼を得たくなる。 力が絶対の魔族は、より強い方に従属させられることに何事にも代え難い歓びを感じてしまうのだ。 特に淫魔はその特性が顕著で、今の僕は魔王様によく似た匂いを嗅いだだけで前が硬く立ち上がってしまった。 「ふっん、んん……ニー……アム、さまぁ……っ」 何の準備もなく後孔はとろとろに濡れそぼっていて、そこにぐちぐちと中指と人差し指を立てる。口からは勝手に魔王様を呼ぶ声が出て、ニアが起きないか慌てて目を滑らせた。彼は胸の上でゆっくりと寝息を立てている。 一度彼に目が向くと、脚を開く子供の中央にある男性器が気になって仕方がない。触れたい、舐めたい、しゃぶりたい。魔王様に奉仕させてもらったのを思い出しながら性急に指を動かす。浅いところにあるしこりに指を立てると身体が震えて、腰からじんわりと痺れが広がった。腰を突き出してぐりぐりと若い身体に押し付けて、ただそれだけなのに快楽を感じて目尻に涙が溜まる。 「〜〜、あっあぁ゛〜〜〜っっ……ッ」 声が我慢できなくて、閉め切ったお風呂場に絶頂の声が響く。びくびくと全身が余韻で震えるのを堪えて呼吸を整える頃には、快楽に浮かされた理性を少しは取り戻していた。 眠るニアの身体を抱えながら、意識のない清めたばかりの彼の身体に精液をぶっ掛けた。 事の重大さに気づいて顔から血の気が引くのと、鼓膜を震わせる声がしたのは同時のことだった。 「随分と楽しそうだったなぁ、ライカ?」 「にっニア……」 彼はいつから起きていたのだろう。少なくとも、たった今起きて現状が理解できていない顔ではなかった。 「ご、ごめっごめんなさい……」 「何を謝っている? なあライカ、それよりも教えてくれないか。私のここ(・・)はどうしてしまったのだろうか」 先ほど僕がニアの身体にしたように、ニアが昂った下半身の中心をぐりぐりと僕の手のひらに押し付けた。 「あっ……」 「わからないなぁ。気になって夜も眠れないやもしれん。なあライカ、どうすればいい? 子供にわからないことがあれば教えてやるのが親と言うものだろう」 「こ、れは……その……」 身体中に発散したばかりの熱が集まってくる。理性が溶かされる。駄目なのに。この子は子供で、僕はその親で。駄目なのに。やっちゃ駄目なのに。 頭でそう思っても、快楽に弱い淫魔の身体はそう易々と拒絶してはくれない。 「ライカのここも、先ほどまで同じように膨れていたよな」 ニアの指先がもう柔らかくなった性器の先端に触れた。先についている白い体液を拭い取り、赤い舌でそれを迎え入れる。 心なしかうっすらと隆起のある喉仏が動き、ゴクンッと喉を鳴らした。まるで何かとても美味しいものを食べたかのようにうっとりと溜め息を吐き出す。 「ライカ、これがもっとほしい」 「い、淫魔の体液は……極上だから……精液は魔力の塊だし……」 そうだ、だって彼は魔力を欲している。これは一種の食事方法だ。 都合のいい言い訳が頭に思い浮かぶと、それを肯定するようにニアは唇の端を持ち上げた。 「そうか。それならもう拒む理由はないな」 「…………ッ」 あとはもう何も言えなくて、ただ赤い顔のまま黙って頷くしかできなかった。 ■ 裸のままベッドへと横たわったニアの身体は、心なしか食事をする前よりも大きくなっているように感じた。縦に伸びた様子はないが、腕や腹に少年らしいほっそりとした印象が減って少しばかり厚みが出たからだ。 「なあライカ、あれをやらせてくれないか」 「あ、あれ?」 つんとまだほっそりとした少年の指先が胸の先端を突く。無防備な反対側の乳輪を赤い舌が這って、彼が僕の言った戯言を実現させようとしているのだと理解させられてしまった。 「な、何で……やだぁ」 「何故だ、試したいんだろう? 自分の胸から母乳が出るか」 「っっ、い、言わないでってば!」 出るわけがない。僕は健在だった頃の魔王様に開発されて雌のような身体にされてしまったが、本来はそれなりに体格の良い雄型の淫魔だった。人間の雌を引き寄せるための筋肉質な胸板だったものは女性の乳房のように柔らかくなってしまったが、女性としての機能は備わっていない。 「やってみないとわからないだろう。思うに、魔力が満ち足りればこちらから溢れることもあるんじゃないか?」 「あ、溢れる……?」 「私に試したいことがあるんだ。身を任せてくれるな?」 淫魔の魔力供給は他の魔族と違って物理的な摂取ではなく、生気を吸うことで成り立つ。簡単に言えば、セックスで相手の満足度が高いほど質の良い食事が得られるのだ。 基本は臆病な僕だが、性に関わることであれば途端に奔放になってしまう。考える間もなく、気づけば頷いてしまっていた。ニアは最初から答えがわかっていたかのように僕の上に覆い被さると、胸に吸い付きながら僕の手を雄の中心へと導いた。 こ、これはつまり僕が彼のものを扱きながら胸を吸われるということだろうか。よくわからないがあまりにも視覚に暴力的で、子供になんてことをさせているんだと一瞬理性を取り戻す。けれどジュッ!と勢いよく胸の先端に吸い付かれ、途端に快楽でぐずぐずにされてしまった。淫魔はあまりにも快楽に弱い。 「んっんっ……ダメだよぉ、……あう、そこだめ……っ」 僕の指が動かないことに焦れたのか、咎めるようにニアが反対の胸を揉みしだく。もう一方の手を下半身に伸ばされるともう抵抗する気力なんて微塵も残らなかった。 ニアの指が僕の性器に絡みつき、握り込まれる。お返しに同じことをすると手のひらの中でニアのそれがドクドクと脈打つのがわかった。 ニア、いま、僕の身体で興奮してるんだ。そう思うと堪らない気持ちになって、充足感で胸がいっぱいになる。呼応するように心なしか胸が張り、何か詰まったようなそれを吸い出してほしくて無意識にニアの唇に胸を押し付けた。早く感じてほしくて、ニアも気持ちよくなってほしくてゆるゆると上下に動かしていた手を早める。 「あ、ああっ、んいいっ!」 ジュッ!と口を窄めたニアに容赦なく吸われると同時に、何か熱いものが胸を貫いたような感覚に襲われた。唇をつけた方とは反対の握り込まれた胸が、指と指の間から液体を飛ばす。ビュービューと噴射した白いものニアの顔に掛かった。それから程なくして、僕の手の中でニアも達する。 「……はっ、ライカ、お前胸を吸われただけで達したか」 お互い荒い息を整える合間に発したニアの声は低く、大人のものになっていた。慌ててそちらを見遣るが、彼はまだ子供のままだ。だが、確実に成長している。 「やはり思った通りだ。性行為は魔力供給が段違いだな。このまま朝までやればすぐに元の姿になるだろう」 言われた内容が耳の左から右へと抜けていく。目の前のことが衝撃的すぎて、会話をできる状態ではなかった。 「ま……え、うそ……魔王、さま……?」 大人の声。この声は間違いなく魔王様だ。声だけではなく顔立ちも。成長するに従って丸く愛嬌のある瞳の形は切れ長の凛々しいものへと変わった。何より、この魔力。むせ返るような強者の香り。 生き写しなんてものではない。これは紛うことなく、魔王様、ニーアム様そのものだ。 「何だ、今更気付いたのか。そう真剣に隠してもいなかったというのに」 まだ若さの残る顔立ちで悠然と微笑まれ、涙が溢れた。言葉に詰まる。何も言えなくて、呼吸すら苦しいくらいに涙が止まらない。 もう会えないと思ってた。永遠に失ったと思っていたのだ。ニアがいるから大丈夫だと、そう己に言い聞かせていた心が瓦解する。 「もう、もうお会いできないかと……ッ」 ニアの存在が嘘なのだと、僕と魔王様の間に子供はいなかったということに衝撃を受けないわけでは無い。だが、僕の人生は全てニーアム様がいなければ意味がないのだ。 僕にはこの人しかいない。 顔中の穴という穴から体液を垂れ流しえぐえぐと震えていると、魔王様が居心地を悪そうに居住まいを正した。 「あー……レジライカ。感涙しているところ悪いが、お前にはもう少し付き合ってもらうぞ」 「へ……?」 「考えていたのだが、当初お前から譲渡された魔力は元々お前と私が性行為をしていた名残だな。身体の成長が滞り、ライカが魔力不足を起こすようになったのも供給の止まった状態で私に受け渡し続けたからだ」 「は、はあ」 「だが先ほどの行為で確信した。私の魔力をライカに渡し、ライカが私に魔力を渡すことで不足を起こすことなく安定した供給が得られるのだと」 「えっと、えっと…………何かすごい発見をしたということですか?」 「そうだ」と簡潔に答えをもらい、表情が明るくなる。 「つまり、つまり魔王様が元に戻れるということですかっ!?」 「私が元の身体に戻れば嬉しいか」 「当然です!」 「お前が恐ろしい目に遭うとしてもか」 「耐えてみせましょう。貴方を再び失うより怖いものなんて、この世にあり得ない! ああ魔王様、僕を早く魔王様の力強い腕の中で眠らせてくださいませ……」 うっとりと至福の時間を思い出して目を細めると、魔王様は強い表情のまま一つ頷いてみせた。 「お前と私の間で魔力を行き来させれば永遠に増強できる、いわば永久機関というわけだ」 「永久機関! 何かかっこいい名前ですね。僕は何をしたら良いのでしょう?」 「今から私の身体が元に戻るまでセックスを行う」 「ご褒美ですか?」 「ただしお前が失神しようと拒もうと終わる気はない。淫魔の、お前がだ」 「おっと雲行きが怪しくなってきましたね」 早速怖い予感がして立ち上がろうとしたが、既に予期していた魔王様の力強い両腕に肩を止められて立ち上がれそうにない。 おそるおそる顔を上げると、少年と青年の間の、それでもまだ少年らしさの残る顔立ちのニアが……いや、魔王様が微笑んだ。 「大丈夫だ、お前は弱いが淫魔としては強いから、性行為で死ぬことはまずない」 「え、あ、ちょ……」 そのまま押し倒され、頭越しに寝室の天井を見上げる。 そこから三日三晩、まさか本当に文字通り離してくれないとは。妊娠できないインキュバスなのに妊娠するかと思った。 ── 城の中から僕を呼ぶ声がして目が覚めた。お腹の中に魔王様のものを受け入れている感触はないし、身体を揺さぶられてもいないからきっと事が済んだのだろう。僕の隣に小振りなシーツの膨らみがあるのを確認して、おそらく魔王様が服を置いていってくれたのだろうなと推測する。 「ライカー? 何処だー?」 「ここだよー、こっちの部屋」 廊下から声がする。いつも本や干し肉を届けてくれる仲間の声だ。一週間に一度ほど来てくれるから、今日がその日なのだろう。 あれだけのことをされても流石淫魔なだけあって声は出るしなんなら快調なのだが、立ち上がると腰ががくがくと震え出す為に立ち上がれなかった。仕方なしにこちらへ呼ぶと、すぐ近くにいたらしい彼が扉を開ける。 「ライカ、生きてるか?」 「もう死んだかと思ったよ」 「はは、全身痣すげー」 「何笑ってんの……あっ! きみニアが魔王様って知ってたな!?」 「それ気付いてないのお前くらいだろ」 「もーっ!!」 わかっているなら言ってくれればよかったのにという気持ちはあるが、ニアと過ごした日々を思い出すと、偽物でも得難い経験をしたと思うのもまた事実だ。ニアと魔王様を天秤にかけたくなくてじたばたと手足を動かす。 「で? 魔王様はどうした。精液ストックがその様子じゃもう全快なんだろ」 「は? きみ僕のことそう呼んでたの?」 「褒め言葉だろ淫魔なんだから」 「人権侵害反対! 淫魔差別だー!」 「んん゛……騒がしいぞ……」 「「えっ!?」」 高い子供の声が聞こえた。声のしたほうへ視線を向けると、服の膨らみだと思っていたものがもぞもぞも動き出した。シーツが動き、そこからにゅっともみじの手が覗く。 「誰であろうと私の眠りを妨げるのは許さん……」 子供の声に似合わない貫禄のある喋り方。そんな、まさか。シーツから顔を出したそれとばっちり目が合ってしまい、勘違いなど起こせない。そこにいたのは間違いなく── 「魔王……いや、ニア……?」 「は? …………は!? な、」 「なんだこの手はー!?」という絶叫が城中に響く。あんなに小さな身体なのに、子供の声ってどうしてあんなに響くんだろう。 「ニア、ニアだ! まさか本物の僕の子供なんじゃ……はっ僕産んだ!?」 「産んでいないふざけるな、私はニーアム本人だ!」 「いたー!?」 ぺしんっ!と額を叩くニアは愛くるしさとは裏腹に力が強い。流石魔王様、幼い頃から僕より強かったのですね……。 荒れる気配を察知したのか、部屋にはいつの間にか僕とニアしかいなかった。もう一人いたはずの彼はテーブルに干し肉を置いて消えている。 魔王様はひどく動揺しているが、僕は一つ思い当たる節があった。というか、それしかない。 「無意識に吸収しちゃったんですね。僕、淫魔の血筋だから……」 「今までこんなことなかっただろう!」 「僕が魔王様を伴侶として認識していたからです。淫魔は身内同士や伴侶には無意識下でセーブが掛かるので……昔、同族同士で貪りあった末の進化だと言われています」 吸収の阻害だから退化だろうか? まあいい。淫魔は特性の一つとして身持ちと頭の軽さが挙げられるほどにおバカなのだ。愛嬌がなければ食いっぱぐれて死ぬしかないから、ある意味それは淫魔らしい進化の形ではあるけれど。 「わ、私はもうお前の伴侶ではないのか……!?」 絶望を感じているのか、魔王様の表情が凍り付く。勇者に首を切り落とされたときでさえ涼しい顔をしていた魔王様が、だ。 大変申し訳ない気持ちになるものの、おそらく無意識の魔力吸収は記憶が混濁するほどのセックスをした代償だ。原因は魔王様にもあると思う。 「あう……それはぁ……そのお姿がですね……その、美味しそうだなーって思ってしまって……精力って基本若いほうが美味しいので」 僕は若い姿をニーアム様ではなくニアだと認識してしまったから、もう頭ではわかっていても同一人物だと思うことができなくなっているらしい。ニーアム様とニアの狭間であるような青年とも少年とも取れる姿は、若くて美味しそうで理性がどろっどろに溶けてしまうのだ。 「私は……年寄り……」と崩れ落ちて震えるニアを抱き締めながら、この姿も悪くないかもなぁと思うのであった。 後日、絶対に伴侶と認識されたいニアと成長するたびに無意識吸収してしまう僕との攻防戦が始まるのだが、これは誰も知らない僕たちだけの戦争だ。魔王様の加護を失った人間たちがどうなろうともう知ったことではないし、今日も世界は平和である。
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