サイレント・ブルー

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サイレント・ブルー

*** 「ゆかり、大変申し訳ないんだが……。今月中に転校することになりそうなんだ」 「え? 転校?」 「そうなの。急にお父さんの転勤が決まってね。受験生のゆかりには本当に申し訳ないと思うし、余計な負担を掛けてしまうんだけど」 「…………」  冬服に慣れてきた晩秋。  親の仕事の関係で決まった転校の報告に、大きな大きな衝撃が走る。高校受験を控えた時期の転校なんて、正直勘弁して欲しい。……が、未成年の私に発言権なんてあるはずもない。  幸か不幸か、志望校である県立北高校は学力重視で内申書にそこまで重きを置いていないし、北高は現在住んでいる地区と転校先の中間地点に位置する場所のため、引っ越し先からの通学にも支障が出ることがない。そのため、志望校の変更をせずに済むことだけでも救いと言えるだろう。 「引っ越しまでの時間も少ないが、よろしく頼むよ」  そう両親と話した次の日から、慌ただしく引っ越しに向けて奔走する日々がスタートすることとなった。私が学校での事務処理に直接関わることこそなかったものの、置きっ放しにしていた持ち物を片付けることを始め、大なり小なりやるべきことはあるものだ。そのことに不平を述べるつもりはないが、急に決まった転校のため、クラスメイトたちとしんみり別れを惜しむ暇がなさそうなことだけが気掛かりだった。  尤も、転校までに十分な時間があったとしても、今までの人生の中で最も勉学に勤しむべき時期に差し掛かっている受験生の友だちとゆっくり別れを惜しむなんて、心苦しく感じてしまうことだろう。ならば、じっくりと別れを惜しむことが出来ないとしても『急な転校』という免罪符が使える状況は、不幸中の幸いと解釈する方が精神衛生上よろしいだろう。  はじまりと終わりはいつだって突然。そして、その二つはいつだって隣り合わせ。  だからこそ、転校先での『はじまり』の心配も本来ならばセットで憂うところだろう。だが、私は『はじまり』の心配は一切していなかった。というか、急な『終わり』の幕引きばかり気にしていた。  それは短い15年の人生の中で、悔いが残る『終わり』は長い時間ずっと引きずる結果となり得ることを知っていたからでもあり、私自身の急な環境の変化に押しつぶされそうな気持ちをこれ以上追い詰められないように保つための処世術でもあったのだ。
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