サイレント・ブルー

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***  笑顔で締め括る決意を胸に、変わらぬ日々を貫き通した最終日。  さすがに、別れを前面に惜しむ声がチラホラと聞こえてくる。その度に『別れ』の現実に改めて直面し、胸が締め付けられる。だが、しんみりとした表情だけは見せないよう最善の注意を払い、笑顔で応対し続ける。 「やだー、ゆかりと別れるの寂しいよー!」 「絶対に春は北高で再会するよ、ゆかり!」 「ゆかり、グレずに勉強がんばるんだよ!」 「うん!! 絶対に合格して、北高で再会しようね!! そして、また三年間一緒にバカしようね!!」  同じ北高を志望していた仲良しの友だちたちに、改めて受験に合格するための決意を宣言している私の瞳には、涙はまだ浮かんでいない。とはいえ、しばし離れるだけだと自分自身に言い聞かせるため、わざわざ高校生活の三年間というの長さを強調して語るなんて、私の闇は案外深いのかもしれない。……が、敢えて気付かない振りを貫く選択をする。  なんといっても、私自身がしんみりとした別れを望んではいないのだ。ならば、私自身が涙のある切ない別れにならないように、さりげなく周りの雰囲気を誘導することくらい悪いことではないはずだ。努めて明るく振る舞うことで、笑顔いっぱいの別れが成立するならそれでいい。私が望んだ理想の別れは、楽しい笑顔が鮮明に焼き付く爽やかな別れなのだから。 「ゆかり。辛くても辛くなくても、何だって遠慮なく連絡してくれていいんだからね」 「そうそう! 詰まらないことでも、下らないことでも。学校の愚痴でも、解けない問題のヘルプでも。何でも、言ってね!」 「でも、深夜は寝かせてね!」 「それは、さすがにキチンと考慮するよー! 安心してー!! そして、寝てー!!」  寂しい気持ちは、一朝一夕で拭えるものではない。  だけど、みんなと一切連絡が取れない環境になる訳じゃない。励まし合って受験を乗り切ることだって、望めばできる環境なのだ。勿論、これから消える環境もある。だけど、これから繋がることも可能な現実に目を向けることは、私にとって大きな慰めでもあり、希望になった。 「高橋! 間違えて、来週からもこっちの中学校に登校するなよ?」 「しないって! っていうか、無理だよ! 距離ありすぎだし、無理無理!!」  相変わらず軽いノリでふざけてくる男子もいた。  女子であれ、男子であれ、絶対にしんみりしない会話の流れが確定すると安堵する。しんみりしない、いつもと変わらない会話こそ、最後まで私が望み続けた愛しい日常そのもの。最後まで変わることなく、愛しくて愛しくて堪らない私の日常が送れることこそが、私の心を穏やかにさせる何よりの特効薬でもあった。
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