サイレント・ブルー

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***  動画のファイル名は【skdtt_argt.mp4】。それらファイル名の子音を順番通りに、相馬くんの無音になっていたメッセージ部分と掛け合わせる。動画の中の相馬くんの口の形をしっかりと見れば『ういあっあ、あいあお』の母音は簡単に理解できるのは、先ほど述べた通りの話。その二つのヒントから導き出せるメッセージは、一つしかありえないだろう。そのメッセージとは…………。 【すきだった ありがと】  優しい相馬くんからのスペシャルなメッセージに気付いた瞬間。引っ越しが決まってから始めて、私は涙を流していた。だけど、それは決して悲しみの涙ではない。文字通り、たくさんの出会いがあった中学生活の終わりも、やはり出会った人の数だけたくさん種類の別れが待っていた。  私はみんなと最後まで中学校に通うことは出来なかった。だけど、みんなと一緒に過ごした確かな思い出がある。みんなと笑顔でさよなら出来たことは誇りさえ思っている。ならば、卑下することなんて何一つないはずだ。  幸せだった思い出の数々が、私をほんのちょっぴり強くさせる。そして、相馬くんが大切な事実を気付かせてくれたおかげで、思い出全てが永遠にキラキラと輝き、揺るぎないものとなっていく。  そんな相馬くんの功績は計り知れないほど大きなものだと言えるはずだ。だって、相馬くんの行動ひとつで、不安も寂しさも全て思い出として綺麗に昇華し、優しく包み込み前に進んでいく基盤を作る流れになったのだから。  不安と寂しさでずっと張り詰めていた気持ちが緩み、安堵して涙を流し続ける。だけど、それは自分なりに終止符を打つことが出来た証でもある。だからこそ、ただただみんなとそして相馬くんと出会った中学生活の幸せな思い出をそっと噛みしめてみる。  確かに今、私の傍に一緒に寄り添い涙を流してくれる友はいない。だけど、部屋の片隅で静かに一人で涙を流しても心細さを感じることは一切なかった。だけど、相馬くんが気に掛けてくれていた事実がダイレクトに伝わり、文字通り傍に寄り添う以上の温かさをしっかり受け止めたことで……。 「相馬くんに会えて、よかった。私も好き、だった」  私の気持ちは最高に満たされていた。 【Fin.】
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