1人が本棚に入れています
本棚に追加
超ショートショート
逢瀬
(あの人と一年に一度の逢瀬すら叶わないというのに、なぜ御父様の客人と会わなければいけないの)
「御父様、ご無沙汰してます」
織女はうつうつとした心を押し殺す。父であり天帝の命に背くことは、天の理に背くことでもあるのだから。
「ふむ。相変わらず華が足りんな」
天帝の手招きに女房の一人が応じ、邸の奥で織女は身だしなみを改められ、
「唐紅の蓮飾りの灯籠の元に」
客人が待つ間を告げられ、織女は唇をへの字に歪める。
「そんな顔をしないでくださいませ。私からいえるのは、天帝様も天の理に従わねばならないということ」
女房は頭を下げ織女を送り出した。客人が待つ間はすぐそこ。
「失礼します」
織女の声に振り返る客人に、織女の瞳が大きくなる。
「織女!」
「牽牛郎様!」
頬に厚い胸、回した手に逞しい腰。その感触を確かめるかのように抱擁を交わす。
天帝の邸から、宴の始まりを告げる軽やかな音色が。二人は寄り添い、天帝の邸に向かって頭をさげた。
天の川の上流から、手桶に入ったそうめんと、涼やかな皿に盛られた料理が、小舟に乗って運ばれてくる。
「酌を願えるかい?」
織女は夫に寄りそい、咲き誇る花に負けない笑顔となる。
(超ショートショート お題:そうめん)
最初のコメントを投稿しよう!