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部屋を出ると、真夏の空気に包まれた。じっとりとした熱気がなおさら苛立ちをあおる。
壁叩き合戦の名残のように、音の根源の部屋のインターホンを連打する。
「はーい」
とてもさっきまで壁を殴っていたとは思えないぐらいのんびりした男の声がして、おれはズッコケそうになった。
って、男?
そんなバカな。いつかの朝、出勤するときにエレベーターで乗り合わせたことがあるんだが、ここの住人は女のはず。おれと同い年ぐらいの、気弱そうな。うつむきがちで猫背なのが、よりナヨナヨしてる感じを出していたのを覚えている。
で、さっきの男は……。
家族か? それとも彼氏?
と考えを巡らせているうちに、ドアが開く。
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