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現れたのは、全体的にほっそりとした、美形の男だった。
長い前髪からのぞく切れ長の目が、おれを見下ろす。
「どうされましたか?」
人様の眠りを邪魔するだけ邪魔して、その態度とは大したものだ。
とにかく、さっきまでドンドンとしていたのはこいつで間違いなさそうだ。
こいつが女のなんだろうが、今はどうでもいい。
「どうされましたかじゃねえよ!」おれの怒鳴り声がひっそりと静かなマンションの共用廊下に響く。
「うるさいんだよ。ドンドンドンドンしやがって。おかげでこっちは全然寝られやしないんだ」
「おやおや、それはすみません」
怒鳴られているというのに、男は萎縮もせず、怯えた様子も見せない。あくまでゆったりとした態度だった。
おれが次なる文句を言おうとした瞬間、
「ここは暑いので、中でお話ししましょう」
男はドアを開けたまま、どうぞ、とすらりとした手を部屋に向ける。
おれは一瞬、拍子抜けした。
……よくも、知らないやつを部屋に入れようと思うな。しかも、女の許可もとらないで。
つっこみたいことは山ほどあったが、なにしろこちとら何日も騒音に耐えてきた身だ。部屋に入ったら、思う存分文句を言わせてもらおう。
おれは靴を脱ぎ散らかし、部屋に入った。
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