隣がうるさくて困ってます

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 おれは男に掴みかかりそうな勢いで怒鳴る。 「なにわけわかんないこと言ってんだ。そんなうさんくさいものなんか、信じられるか」  だが、あの女の家族でも彼氏でもない赤の他人が家に居座って、部屋には物を荒らした形跡もない。となると、泥棒でもないことは確かだ。  消去法でいっても、こいつが『やり返し代行』の人間だと思うしかないようだ。  だが、なぜ? 「なんで壁ドンドンしてたんだ」 「やり返しをしていたんですよ」  考えたら分かるでしょう、と男。 「そーじゃなくて!」  おれは男を見る目に力を入れる。 「なんでおれがされなきゃいけねえんだよ」  男は動じない様子で、ですから、と言い、 「あなたがここの方になさったことを、やり返したんですってば」  ぶちっ、と頭の中でなにかが切れた音がした。 「ふざけんな!」次の瞬間、おれは男のワイシャツの襟元を掴んでいた。 「くそ、女はどこだ? こんな姑息なマネしやがって」 「こちらが用意した宿に泊まっていただいております。他の住民の方にもご協力いただいておりますので、彼らも一緒に」  胸ぐらを掴まれたまま、男は状況と合わなさすぎるぐらい穏やかに、 「なお、場所はお教えできません。彼女らの安全を考慮すれば、当然のことですが」  神経を逆撫でするようなことを言う。 「なんでおればっかり悪く言われるんだよ!」  男を揺さぶりながら、おれはもう、叫んでいた。 「元々は向こうがうるさかったから!」  おれは悪くない。お互い様だ。 「あの方には、ふつうに生活していただけだとお聞きしておりますが?」  男はあくまで冷静だ。 「いいや、夜中にくっちゃべってたり、こっちの壁を叩いたりしてたよ」 「そんな大声でしゃべってらっしゃったのですか? 壁だって、叩いたのではなく、たんに手や足が当たったりしただけなのではないですか?」 「それは……」  言葉に詰まった。同時に、男を掴んでいる力が弱くなる。 「でも、迷惑してたんだぜ」 「どの口がおっしゃるのですか」  苦し紛れの反論は、ピシャリとはねつけられた。  全く怒気はなく、穏やかな口調だったが、男のセリフには迫力が感じられた。  おれは押し黙る。 「ならなぜ、管理会社や警察に言わなかったのですか。ここの住民の方のように」  おれは、なにも答えられない。 「あなたにとって重要だったのは、あの方が静かになること、よりも、壁に拳を打ちつけることで、あの方が萎縮することだったから。違いますか?」  静かに、だが罪を糾弾するように、男は問う。 「知ったように言いやがって」  おれは吐き捨てるように言った。 「だが、ちょっとばかし、言い訳させてくれよ。おれ、元からこんなんじゃないんだぜ」
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