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ドン、ドンドンドン、ドンドン、ドン——。
横たわってるベッドのそばの壁が振動して、ようやく眠りについたところなのに、おれは現実に引き戻される。
枕元で充電しているスマホで時間を確認すると、午前2時。まだまだ起きるには早すぎる。
前から、隣からの騒音にはイライラしていた。仕事でささくれ立ってるところを、さらに気持ちを尖らせてくる。が、今回は特にひどい。あきらかに悪意がある。こんなに壁を殴ってくるなんて初めてだ。
ただえさえこっちは疲れてんのに、いい加減にしてくれ。
おれは握りこぶしを作り、安眠妨害の諸悪の根源めがけて思い切り打ちつけた。
鈍く低い音が響き、壁が震える。いつもはこれで静かになるのだ。
案の定、場がシン、と静まり返った。
ふう。明日は休みだけど、疲労困憊してるんだ。寝よう。
眠気が覚めないうちに、布団に潜りなおす。と。
太鼓を叩くアーケードゲームの、「連打・大」の譜面を打っているような強い音が、また聞こえてきた。
ドンドンドンドンドンドン!
あんまり勢いが強いので、壁がたわむんじゃないかって思った。
おれも負けじと、壁をパンチしまくる。すると、向こうも、やり返してくる。
なかなか相手は折れない。怒りのボルテージはどんどん上がっていき、それとともに拳にこもる力も大きくなる。
向こうから聞こえてくる音もだんだん大きく激しくなっていき、この部屋が揺れるんじゃないかと思うような振動になった。
くそ、こいつ!
さすがにもう手も痛い。手応えもないし、疲れてきた。
だが全然静かにならない。まだドンドン言ってる。なんだか、殴ったサンドバッグに返り討ちにされてる気分だ。
こうなりゃ直談判だな。おれは立ち上がった。
ふと、疑問が湧き起こる。
なんでこんだけお互いドンドンやってるのに、全然苦情が来ないんだ? みんな、寝てしまっているのか?
まあいいや、とにかく、隣め。今日という今日は許さん。溜まりに溜まった怒りをぶつけてやる。
おれは勢いよく玄関のドアを開けた。
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