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「まあ、祭り自体は明日からだけど、今日の夜は歓迎会も兼ねてパーッとやるか?」
頭の側面に髪が少し残っているのみの目の細い老人、柳政吉がそう言った。周りもそれにおおっ、っと賛同して、完全にそういう流れになってしまった。
「あの、お気遣いはありがたいんですが、その……迷惑じゃないですか……?」
恐る恐る俺が聞くと、みんな何を馬鹿なことを、とでもいうように一蹴して、遠慮すんな遠慮すんな、と口々に言うのだった。大事な祭りの直前にそんなことをしてもいいのだろうか?と思ったが、口には出さずにおいた。菊池は懐かしい面々と久しぶりに会ったのが嬉しいらしく、顔を終始笑わせて村の色んな人たちと話している。広谷は思いもよらず同年代の女子数名がいて緊張しているようだったが、村の人たちの歓迎ムードによって徐々にほぐされていったようだった。いい村だなあ、と感動して目を細めていると、奥の席の入口から見て左側に座る、完全に髪のない小柄な老人がみんなに言うように大声で言った。
「そんじゃ、もう準備しないといかんね。タカちゃんも若いんだから手伝え。瀬戸君と広谷君は後で来てな。」
話が終わると、皆そうだな、と口々に賛同の声を上げて席を立っていき、ぞろぞろと集会所から出ていった。全員一旦家へ帰って準備をした後、歓迎会の準備に参加するのだそうだ。村の一体感がすごく、みな誰かの一言で一致団結してすぐ行動する。素晴らしい精神の村だと思った。
菊池がお茶を用意してくれた女子の1人に手伝いへと連れていかれたので、このあとはどうしようかと広谷と2人悩んでいると、先程お茶を用意してくれた女子2人が話しかけてきた。2人とも思わず2度見してしまいそうな美少女であった。広谷はなにかの臨界点を超えたらしく、放心状態になっている。
「ねえ、祭りの準備、よかったら一緒に行かない?」
「えっ、祭りの準備とか……俺たちが行ってもいいの?」
タメ口で話しかけられたのでタメ口で返したが、もし年齢が上だったらどうしようかと一瞬思った。考える間もなく彼女たちは返答した。
「もちろん!というか、そもそも今日の準備は君たちのためなんだしさ?」
彼女たちの言うことはもっともである。そもそもさっきそのことは決まったのだし、そのために村の人たちが準備を始めてくれているのだから、当然俺達も手伝った方がいいだろう。
「じゃあ俺たちもさすがにただ待ってるのはまずいから手伝いに行くよ。」
「そんなことなら気にしなくていいのに。」
そう言って美しい笑顔を見せる。俺はそれを断ってやはり手伝いへと行くと頑なに主張した。広谷は一言も喋らずただじっと立っていて、俺が話している女子はもちろん、話していない方の女子とも頑なに目を合わせないようにしている。
「おい、ちゃんとしろよ。柔道部でだって女子部員ぐらいいるだろ。それと一緒だよ。」
完全に使い物にならない広谷を部屋の端へと連れて行って耳元で話す。すると広谷は心外だ、とでも言わんばかりな顔をして耳元に話しかけた。
「それは別だろ!そもそも、知り合いにあんな美少女いねえよ。」
「あんな美少女というなら、お前の大好きななんとかってアニメの円花ちゃんよりも可愛いのか?」
「2次元と3次元を混同するなよ馬鹿!そもそも円花ちゃんはアニメじゃなくてギャルゲのキャラだろ!」
「そんな細かいことは知らん。そんなにギャルゲやり込んでるんだったらギャルゲの主人公と同じように受け答えすればいいだろ!」
「ギャルゲは選択肢が出るだろ!選択肢がなかったらわかんねえよ。」
「毎日何やってたんだよ、なんの意味もないじゃねえか。」
押し問答がエスカレートしていった後、さっきまで俺と話していた方の女子が止めに入って、とりあえず向かおう?と助け舟を出してくれた。仕方なく従うこととして、4人で集会所を出て歓迎会の準備場所へと向かった。
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