11人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし村の人たちが祭りに向けて準備していたこともあってか、手伝いできることはほぼ終わりかけていた。結局俺たちのやることといえば、机の運搬をいくつかする程度だった。早朝から出発したため体感時間ではもうすぐ日が暮れると思っていたが、まだ昼間だったのでとりあえず菊池の家に帰って5時からの歓迎会へと向かうことに決めた。菊池とも合流できたので、とりあえず藤原さんと風見さんとは別れて歓迎会で落ち合う約束をした。
「お前ら、イチャつきすぎなんだよ。」
「……はぁ?」
「急になんだ、お前。」
「……俺が村のじじいに手伝いさせられてる間、お前らちんたらちんたら美少女とイチャつきながら来やがって……!」
菊池は怒りの表情を顕にしながら俺たちの先頭を歩き、藤原さんたちと別れてからというもの、ずっとこの調子である。
「いやいや、お前だって可愛い子に連れてかれてたじゃん。」
「お前らは楽しくお話しながら散歩でもしてたからよかったんだろうよ……俺なんか引きずられてひたすら肉体労働だったんだぞ!」
「知るか!」
今度の散歩道は雑談ではなく罵倒に近いものだった。広谷は気の合う美少女たちとたくさん話が出来て嬉しかったのか、途中から口笛を吹いて手を頭の後ろで組みながら歩いていた。その時またふと視線を感じて振り返ると、神社の近くにあの赤い服の女が立っているのが見えた。前回と違うのは、その女は長い黒髪を垂らしてこちらを向いて立っているということだ。ちょうど髪に隠れて顔や表情は見られないが、色白ということは分かる。前の時と同じく、世界から孤立したようにその姿だけが浮かび上がっている。
「お、おい…広谷…」
「……ぁあ?」
「またいるぞ、あの女……」
「女?あぁ、さっき言ってたやつ?」
「そうそう……ほらあそこ!神社のところ!今度はこっち見てるぞ……」
「何言ってんの、そんなのいないよ。」
菊池が素早く否定する。広谷もそれに賛同した。
(……あれは、俺にしか見えてないのか……?)
「お前、ほんとに大丈夫か?」
広谷がいよいよほんとうに心配した顔をしてこちらを見る。
「大丈夫だよ……多分気の所為だ。」
俺はただそう言って出来るだけ早く帰ろうと努力した。
最初のコメントを投稿しよう!