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内装は不思議な雰囲気を感じた。壁にかけてある時計は洋風の新しそうな時計で、玄関付近や廊下はごく最近の建物のようだが、リビングらしき部屋に行くとテレビはなくラジオのみあり、電気は蛍光灯で壁には水墨画がかかっていた。水墨画は破れてしまっているのか、人の下肢しか描かれておらず、だいぶ古いものかと思われた。その他の壁には本棚が置いてあったが、蔵書が非常に多く、床にも沢山本を積み上げてあった。
ひとまずソファを勧められ2人で座ると、どこからか菊池が出てきて机の横にあったイスを引っ張ってきて座った。菊池さんは奥に見えるキッチンでお茶か何かを用意している。
「不思議な内装だな、新しいものと古いものが混ざりあってる。」
「だろうな。うちは親父と爺が頑固でさ。新しいものをとにかく毛嫌いするんだよな。まあ、だからこんな村にずっといるんだろうけど。」
広谷の疑問に菊池が嫌味を含んで言う。俺も内装に興味をそそられ部屋を見渡していると、菊池さんがお菓子とお茶を持ってきてくれた。
「うち、汚いでしょ。ごめんなさいね。」
「いえいえ、そんなことないです。それにしてもすごい蔵書ですね。誰が読まれるんです?」
「私の夫、つまりこの子の父親がね。ものすごく読書家で、小説を書いてた時もあるのよ。いっぱい書いてたけど、全く売れなかったわね。全体的に古い人だったから。」
そういって昔を思い出すように目線を斜め上にあげながら笑った。古い人、というのはさっき菊池が言ったような意味も含めて、だろう。小説を書く、ということはとても体力のいる作業だ。しかも長編ともなれば、一日やそこらで終わるものでは無い。モチベーションを保つことが必要になる。菊池の父親がどんな頑固な性格で古い人間であったとしても、燃え盛る本への情熱は感じられ、尊敬できた。
その後はとりあえず、村を回って祭りの準備を見に行くことにした。車の中では村の様子をほとんど見られなかったので、意気揚々と荷物を置いて準備をした。
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