到着

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齋藤さんと俺たちは社務所の方へと向かい、裏の出入口から中に入った。中はごく普通の和風住宅、といった感じで別段特殊なところはなかったが、本棚にはびっしりと本が並べられていた。広谷は社務所に入る前、座敷だったら座ってると体がきついから嫌だ、と愚痴をこぼしていたが、運良くリビングのようなスペースにはテーブルといくつかの椅子があったので、あとで絶対にお参りに行く、ここの神様には感謝だ、などと言っていた。 「そこに座ってちょっとまってて、今お茶とお菓子を用意するから。」 俺たち3人は礼を言い、部屋を眺め回して待った。菊池は何かを探しているのか、辺りを見回している。 「お待たせ、どうぞ。」 お茶とお菓子が運ばれてきて、全員が飲んだ。苦味がいい味を出しているお茶を二口飲んだあと、ふと思ったことを口にした。 「そういえば、やっぱり村の祭りということは、齋藤さんも何かと色々忙しいんですか?」 すると齋藤さんは笑って首を横に振った。 「いやいや、ここの祭りは僕みたいなのは基本的に関わらないよ。ほとんどはこの神社の巫女と旧家の当主たちが行う。肝心な部分は関係者以外全く見られないしね。」 「えっ…そうなんですか!?どういう祭りなんだ…」 広谷が隣で驚いて頭を悩ませている。しかし齋藤さんは、自分の目で確かめた方が確実だ、その方が楽しい、と言って何も教えてはくれなかった。その時、裏の出入口が開く音がした。 「掃除終わりました……その御三方は?」 巫女服を着た美少女が部屋へと入ってきて、3人を怪しい者でも見るかのような冷たい目で見渡した。この人が祭りに大きく関わる巫女なのだろうか?肩甲骨あたりにかかっているストレートヘアは、綺麗な黒髪をしていた。 「この3人は東京からオヒオミ祭を見に来たんだよ。」 その瞬間、美少女の目が変わった。先程までとは違い、まるでこちらを哀れんでいるかのようだった。 「私は桐ヶ谷美樹(きりがやみき)です。見てのとおり、この神社の巫女をしています、どうぞよろしく。」 彼女の冷たい、ぶっきらぼうとも言える態度に、あまり好感は持てなかった。しかし隣に座る広谷は、まるで神にでも会った時のような澄んだ瞳をしている。急に落ち着きがなくなってそわそわしだしたので、そのうち焦って告白でもするのではないかという勢いであった。おおかた、彼の好きなアニメかなにかのキャラクターにでもそっくりなのか、巫女萌えとか何とかいうのだろう。 3人全員が挨拶を済ませ、菊池がこの村の出身であることを告げると、菊池への態度が少し硬くなったという印象を受けた。彼女はあまりこの村のこと、この村の人間のことが好きではないのかもしれない。年齢はほぼ同じぐらいのはずなので、やはり娯楽の少ないこういう土地で長く過ごすのは辛いものもあるのかもしれない、と勝手に予想した。 桐ヶ谷さんはほとんど沈黙を貫いていたが、ほかの面々はそこそこ楽しく談笑をした。齋藤さんが実は大のSFファンであることを知り、2人で熱く盛り上がったりもした。広谷は終始そわそわとしていたが、桐ヶ谷さんは全く意に介さない様子だった。しばらく経ってからお暇することとして、次に、祭りでの重要な役割を演じる旧家の面々とも会えるかもしれないので、村の集会所へ行くことを齋藤さんに勧められた。 2人は既に外に出ていたが、俺はトイレに行きたかったため、社務所のものを借りることにした。盛岡駅ぶりのすっきりとした気分でトイレから出ると、会った時より少し口を固く結んだように見える桐ヶ谷さんがそこに立っていた。 「……気を付けてくださいね。」 桐ヶ谷さんが少しの沈黙の後言った。 「……?なににです?」 「とにかく、気を付けてください。特に村人には。あなたたちは来るべきじゃなかった。」 先程までの冷静で、無関係を貫かんとする桐ヶ谷さんとはまるで違う主張の強い物言いに少し動揺したが、それよりも桐ヶ谷さんの言った内容の意味の方に興味が傾いたので、すぐに落ち着きを取り戻して尋ねた。 「気を付けるって……どういうことです?あっ、ちょっと!」 桐ヶ谷さんに説明を求めた瞬間、彼女はサッと振り返ってどこかへ歩き去ってしまった。 先程の言葉には大きな疑問が浮かび上がったが、なぜか友人2人には言わない方がいいように思えたので、何事もなかったかのように合流した。
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