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始まり
1年で最も気温の高い季節が続き、生活するだけでジリジリと人間の体力を削り取っていくある日。俺は同じT大学に通う友人たちと合流するため、スーツケースを片手で引きながら駅前へと向かっていた。1ヶ月半ほど前から大学は夏休みに入っていたが、例年と比べて格段に暑くなった今年の夏は何をする気力も起きず、もし友人から避暑地への避難の誘いがなければ、エアコンの効いた自室で無駄に2ヶ月の時を過ごすことになっていたであろう。すでに1ヶ月半は過ごしたあとだが。
自宅から駅へは歩いて15分程度。駅前の大きな建物群が見えてきて、待ち合わせ場所として有名なモニュメントの辺りに友人たちの姿を探しはじめる。友人たちはすぐに見つけられた。2人とも特徴的な格好をしていたからだ。
「よう、瀬戸。」
「おっす。」
特徴的な友人A、広谷貞利が向かっていく俺に最初に気づいて挨拶をする。特徴的な点とは、その体格と着ている衣服にある。身長186cm、体重122kgの巨漢である貞利は、大学の柔道部のエースである(本人曰く)。今日着ている服は彼の好きなアニメの推しがでかでかと印刷されたTシャツである。首には水で濡らすタイプのタオルをかけており、頻繁に顔を拭いていた。その濡れたタオルが汗なのか水なのかは本人にも分からないようだった。
「遅いぞー」
「いや、集合時間5分前なんですがそれは。」
「こまけぇこたぁいいんだよ。」
特徴的な友人B、菊池崇裕が続けて話しかけてくる。彼にも、広谷の横にいれば多少目立たなくもなるが、街中でも1人でいればすぐ気づくことが出来るほどの特徴がある。それは広谷ほどでは無いものの長身でスタイルがよく、髪が肩にかかるほどの長さであることだ。顔も決して悪くなく、むしろイケメンに分類されるものである。彼は何故か年中長袖長ズボンで生活していて、よく広谷に驚かれている。今回避暑地へと我々をいざなう案内人は彼で、行先は東北の彼の地元である。彼は東北の森の中でもかなり奥まったところにある村出身だそうで、広い一軒家があるため2人とも彼の家に泊めてくれるそうだ。
「それじゃ少し早いけど行くか。」
「OK。」
菊池の言葉で、全員が東京の駅の人混みへと吸い込まれていった。
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