押す×退く

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…思えば、物心ついた頃から私は自分の声が 嫌いだった。 家族には言われたことがなかったから、全然 知らなかったけど、幼稚園に通いだしてから 自分の声が普通の人とは違うんだってことを知る。 変な声だと、男子にからかわれ、女子にはぶりっこ だと噂されたり。 それがよく分からなくて、一度、自分の声を録音 してみたことがある。 そして初めて分かった。 ああ、私はいわゆる"アニメ声"というやつなん だって。 それから、声を発することが怖くなってしまって 自然と外で人と会話をしなくなった。 一人で居ることは楽だけど、決して好きでそう してるわけじゃない。 だから本当は憧れてたんだ。 友達を作ることに。 ───誰かと楽しく話すことに。 新しいクラスになって初めて話したのが、なんと 誰もが恐れる鬼島君で… しかも初めて私の声のことを褒めてくれて。 嬉しかったけど、きっともう会うことはないんだと そう、決め込んでいた次の日の朝─── 「よう。」 先生をはじめとする、皆の驚愕の視線を一身に 浴びながら彼はなに食わぬ顔で教室へやって来た。
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