押す×退く

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思わず顔を上げると、鬼島君は真っ直ぐに こちらへ向かって来る。 先生はもちろんのこと、クラスの皆が彼の姿を 息を潜めて見つめていた。 でも、彼はまるでそんな周りの視線なんて目に 入っていないかのような素振りで、私の隣─── 自分の机の上にドカッと鞄を置く。  その間じーっと痛いくらい、彼の切れ長の瞳が 私を捉えていた。 「昨日ぶりだな。」 初めは睨まれているのかと思ったけど、ポツリと 呟かれたその言葉によって、私は理解する。 鬼島君は私に挨拶をしてくれたのだと。 慌ててコクリと頷くと、彼は満足したのか少しだけ その鋭い目元を緩めた。 ガッと、静まり返っていた教室に彼がイスを引いて 座った音が大きく響く。 それがきっかけとなって、朝のホームルームの 途中だったことに気づいたらしい先生は、極力 鬼島君を見ないように話を戻した。 チラリと隣を盗み見る。 すると彼は興味なさそうに前を見据えてた。 その姿はガンを飛ばしているようにも見える。 先生がしどろもどろになりながらも、何とか 朝のホームルームを終えた時、ふいに隣から気配を 感じてそっと様子を伺う。 「なぁ、教科書見せてくれねぇ?」 …いつの間にこんなに距離が近づいていたん だろう? そう思うくらい、近くに鬼島君の顔があって 私は咄嗟に声を上げそうになった。
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