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鬼島君の鋭い瞳が私を覗く。
「俺、教科書持ってねぇんだよ。」
「………。」
当たり前、とでも言うようにサラッと言われた
けど、教科書も持たずに何の為に学校に来たんだ
ろうと思ってしまう。
…もちろんそんなことは聞けないけど。
普段は全然目立たない生徒のはずの私が、今日は
物凄い注目を集めてる。
この隣の席の人のせいで。
鬼島君の視線にも、周りの視線にも耐えきれなく
なった私は次の授業で使う古典の教科書を机の
上に出した。
恐る恐る隣を見ると、まだ何も答えてないのに
あっという間に私の机と自分の机をくっつけて
しまった。
ぐぐっと距離が近くなる。
戸惑う私とは対照的に、鬼島君は机に頬杖を
ついて何を考えてるのか分からないけど、じーっと
こちらを見てきた。
それと同時に周りからの視線も痛いほど刺さる。
哀れんでいるような視線が。
居たたまれなくて、そっと教科書をお互いの机の
真ん中に置いたら…
「ありがとな。」
ポツリとお礼の言葉が聞こえた。
驚いてすぐに隣を見ると───鬼島君は一瞬だけ
口元に笑みを浮かべる。
それは、昨日帰り際に見たあの優しい笑顔と同じで
思わず食い入るように見つめてしまっていた。
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