押す×退く

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…おかしいな。 屋上は確か鍵がかかってたはずなんだけど。 なんて思っていたらパッと腕が離された。 「ここなら周りの奴を気にしなくてもいいだろ?」 そう言って突然、振り返る鬼島君。 赤みがかった茶髪がサラリと揺れる。 それと同時に太陽に照らされて、ピアスがキラリ と光った。 よく分からなくて瞬きを繰り返してる私に 続けて言う。 「ここには俺以外誰も居ないんだから、普通に 話せよ。」 「…えっ」 思いもよらない言葉に、小さく声を上げてしまった。 驚いてる私を他所に、鬼島君は突然屋上の真ん中に ドカッと腰を下ろす。 するとポンポンと、自分の隣を手で叩く。 それはまるで、私を誘っているようでまた驚いた。 立ち尽くす私を見て軽く息を吐くと、表情を 変えずに言う。 「んな怖がんなくてもいいだろ。 ただ話そうって言ってるだけなんだから。」 そう言った鬼島君はどこか寂しそうで、考えるより 先に足が動いた。 ゆっくりとぎこちない動きで近づいて、隣に そっと腰を下ろすと、切れ長の瞳が真っ直ぐに 私を捉える。 思わず息を飲んだ。 「日下部は話すのも嫌いなのか?」 それを聞いて、さっき授業中にやりとりした内容 を思い出す。 確かに自分の声は嫌いだけど、本当は話すのは 嫌いじゃない。 だから私は首を横に振った。 すると───鬼島君はふっと鋭い目元を緩める。 「だったら、お前の話を聞かせろよ。」
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