押す×退く

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予想外の言葉に頭がついていかない。 と言うかそれ以前に、目の前で鬼島君がまるで 別人のように優しく微笑むから驚いた。 「私の…話…?」 「やっとしゃべったな。」 ハッとして反射的に口をおさえると、鬼島君は 満足そうにこちらを見る。 でもそれはからかってるような感じではなくて なんと言うか、嬉しそうに。 「周りの奴がどうかは知らねぇけど、俺は 日下部の声が変だなんて思わないんだから 話せるだろ。」 「ほっ本当に…?」 「ん?」 気づけば前のめりになってしまっていた私。 鬼島君はそんな私の様子を静かに見ていた。 慌てて体勢を戻してから、座っていても身長差が あるから躊躇いながら顔を上げる。 「本当に私の声を変だと思わない…?」 「ああ。だって可愛いだろ。」 聞いた私はとても緊張していたのに、鬼島君は あっさりと即答してしまう。 その瞬間、体からふわっと力が抜けたような 気がした。 いろいろすごく軽くなったようなそんな気がする。 でも冷静になってみたら、急に今の状況が恥ずかしくなってしまって、つい顔を下げた。 だって鬼島君との距離があまりに近いから。 「そんなこと言ってくれたの、鬼島君が初めて だよ。」 ポツリと呟くと、隣からふっと軽く笑う声が 聞こえてきた。
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