体育祭×友情

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「えっ?でも…私の声なんて聞こえなかった よね?」 だって、周りは大歓声に包まれてたんだ。 あんな中で走ってる鬼島君に私の声が届くはずが ない。 きっと気を遣って言ってくれてるのだと思う。 そしたらふいに鬼島君は高い背を屈めて顔を 近づけてきた。 「聞こえたよ。」 「うそっ…」 「嘘じゃねぇ。 日下部の声を俺が聞き逃すわけねぇだろ。」 思わずドキッとしてしまう。 鬼島君の瞳はとても嘘をついているようには 見えない。 約束通り本気を出してくれたんだろう。 さっき拭ったはずなのに、額にはまだ汗が滲んで いて赤みがかった髪も乱れてる。 それが妙に男らしくて、何かいけないものを見て いるような気がしてしまった私はつい視線を下げた。 「走ってる鬼島君…」 「何だよ?」 恥ずかしくて声はどんどんと小さくなっていく。 それでもちゃんと伝えたいと思った。 「カッコよかったよ。」 思ったよりずっとずっと小さくなってしまった 私の声は鬼島君に届いたかな? 反応がなくて心配していたら… 「…おう。」 どこか照れたような声とともに、また頭に手が 乗せられた。 "だから、その声でそういうこと言うのは反則だろ" とか何とか呟いていた気がするのは、きっと気の せいではないはず───。
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