雨×ケンカ

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視線の先にはじんわりと濡れた肩が見える。 鬼島君は私に気を遣ってくれているのか、一緒に 傘に入っているのに触れないように微妙な間隔を 空けているし、傘も私寄りに傾けていた。 せっかく傘があっても、これじゃあ意味がない のに。 「もっとくっつかないと、鬼島君が濡れ ちゃうよ?」 私がそう言うと鬼島君はピクリと、少しだけど 肩を震わせた。 それは珍しい反応だ。 不思議に思って顔を見上げると、ぎっと眉間に皺を 寄せた顔が目に入った。 一瞬、怒っているのかと思ったけど、次の瞬間 ボソッと呟く。 「そういう訳にはいかねぇだろ。」 「えっ?」 そう言った鬼島君の目元はどことなく赤らんでいて 視線は明後日の方向を向いている。 「でも、風邪ひいちゃうよ?」 何だかよく分からないけど、このまま雨に濡れ させてしまうのは嫌だから、そっと傘の柄に手を 添えて鬼島君の方へと押しやった。 すると今度は私の肩が雨に濡れる。 こんなことになるなら、もうちょっと大きな傘を 持ってくればよかったなって思った。 「おいっ、それじゃあ日下部が濡れるだろうが。」 「私は大丈夫だよ。」 「大丈夫じゃねぇ。」 はぁっと軽く息をついたと思ったら、鬼島君は突然 グッと体を寄せてくる。 今まで触れることのなかった腕が触れ合う。 「少しの間、我慢しろよ。」
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