雨×ケンカ

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恐る恐る再び顔を上げると、いかにもバツの 悪そうな鬼島君が居る。 何て言ったらいいか分からなくて、私が言葉を 探していると、はぁっとため息をつかれた。 「…慣れねぇんだよ。」 「え?」 「だから、女子と二人でこんなくっついて歩く のは慣れてねぇって言ってんだ。」 ふっと視線を外した鬼島君。 いつも迫力のあるハスキーな声が、今は何だか 違って聞こえる。 そこでやっと分かった。 …そっか。 鬼島君も恥ずかしかったんだね。 分かってしまえば、さっきまで怒らせてしまったと 思って凹んでいた気持ちはなくなる。 ただ、妙に緊張してきてしまった。 思わず私も視線を反らしてしまう。 触れ合っている腕に意識が集中して、だんだん 熱を持っていくように思えた。 何か違う話題を考えようとしても、ぐるぐると 頭の中を回って焦るばかり。 元々鬼島君はおしゃべりではないから、私達の間に 会話はなくなってしまった。 しとしとと降る雨の中、私の耳にはさっきの 言葉だけが残っている。 友達だけど、私と鬼島君は女子と男子で… こうやって相合い傘で一緒に帰っていることが 急にどうしようもなく恥ずかしくなった。
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