雨×ケンカ

6/12
前へ
/113ページ
次へ
「ねぇ、名前は何て言うの?」 言いながら、その人はニヤリと笑った。 嫌な視線を向けられて、背中がぞくりと震える。 何だろう。 すごく気味が悪い。 「ねぇ…」 「黒木。 てめぇ、それ以上言ったらただじゃおかねぇ。」 一瞬にして空気が張り詰めた。 低く、まるで地を這うような… 唸るような声が静かに耳に入ってくる。 それは小さな声だったけど、人を制するのには 充分な威力を持っていた。 現に今さっきまで余裕の笑みを浮かべていた 黒木と呼ばれたその人は、鬼島君のその一言を 聞いたとたんガラリと表情を変える。 周りの取り巻きの人なんかは、完全に震え 上がっていた。 「…仕方ない。 今日のところは見逃してあげるよ。」 黒木と呼ばれた人は、そう言ってまた口元に 嫌な笑みを浮かべる。 そしてゆっくりと、また挑発するように鬼島君の側を通り過ぎて行こうとした。 最悪の事態…喧嘩にならなくてよかったと 思ったら、ふいにその人は何かを呟く。 「………。」 それは鬼島君の横を通り過ぎる瞬間。 鬼島君の耳元で何か囁いていた。 何て言ったのかは聞こえない。 でもよくないことなんだと言うことは分かった。 だって、その人を振り返った鬼島君の顔は やっぱりすごく怖いものだったから。 取り巻きの人達を引き連れて遠ざかって行く姿を 鋭い瞳が追っている。 私は言い様のない不安にかられて、気付けば 鬼島君の制服の端を掴んでしまっていた。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加